ランダムな媒質の状態密度関数の最低エネルギーにおける挙動 を明 らかにすることは数学の物理学への応用の中でも最も実績のある課題の一つであ る。 特に不純物がポアソン点過程に従ってランダムにばら撒かれた媒質での挙動が Donsker-Varadhan の大偏差原理によって明らかにされたことはこの方面で最も 評価 の高い成果の一つである。結果は状態密度関数が指数的にゆっくり立ち上がると いう ことだが、このことは不純物が完全格子上に並ぶ場合のオーダーがベキであるの に比 べて低エネルギー状態が非常に少ないことを示しており、このことが Anderson 局在 の証明にもつなげられている。最近福島氏はポアソン点過程と完全格子の中間に 相当 するランダムに摂動された格子に対してこの挙動を明らかにした。一方 Donsker- Varadhan の結果は各不純物のポテンシャルの影響が遠方にあまり及ばない場合 に主 要項がポテンシャルの形にあまり依存しないことを示す量子力学的な要因による もの であり物理学者 Lifshitz が発見したことに因んで Lifshitz tail と呼ばれて いる ことに対して、ポテンシャルの影響が遠方に及ぶ場合にはポテンシャルの形に依 存す る古典的な要因が現れることを Pastur が明らかにしており、この挙動は Pastur tail と呼ばれる。そこで本講演ではランダムに摂動された格子に対して Lifshitz tail からPastur tail に遷移する様子を明らかにする。