next up previous
Next: アーベル圏で捉えた商空間I Up: erq4 Previous: 目的

トーラスの上のフォリエーション

話を簡単にするために、二次元のトーラス $ T=$$ \mbox{${\Bbb R}$}$$ ^2/L$ 上の ベクトル場 $ X=d/dx-\alpha d/dy$ を考えることにしよう。ここで、$ L$$ R^2$ の なかの lattice で、 $ x,y$$ R^2$ の座標関数である。 もし定数 $ \alpha$ が無理数なら、良く知られているように このベクトル場の積分曲線はトーラスを無限回巻きついた曲線である。 そして、$ T$ をこのベクトル場で割ったものは奇妙なものである ということになっている。実際、このベクトル場に沿って不変な $ T$ 上の連続関数は、定値関数のみである。

A. Conne氏 の 「Non Commutative Geometry(Academic Press; 1」 には、この状況を改善するための、 面白い処方箋がのってある。曰く 「ここでは、関数の代わりに作用素値の関数を考えればいい。」

実際に、 $ C(T)\otimes \mathbb{B}(H)$ を考えて、それをベクトル場で割って やれば良いかと言うと、それでは全く状況を変えることが出来ない。 つまり、上に引用した言葉は、「係数拡大」(ベース変更)というアイディアだけでは 理解できない部分がある。

$ T$ 上の関数を考える代わりに、ベクトル束のセクションを考えるのはどうだろうか。 これはうまくいく。

砂田利一氏の「基本群とラプラシアン(紀伊國屋数学叢書29)」 では、$ T$ の基本群の表現に由来する $ T$ 上の(無限次元)ベクトル束 $ V$ を定義し、 「C(T)上のVのセクション」と、 「 $ \mbox{${\Bbb R}$}$$ ^2$ 上の(無限遠での挙動に少し条件をつけた)関数」 とが一体一に対応していることを示して $ T$ 上の解析学と $ \mbox{${\Bbb R}$}$$ ^2$ 上の解析学との行き来を可能にしている。

ここでも、このベクトル束 $ V$ を流用すると、$ T$ 上の $ X$-不変セクション は $ \mbox{${\Bbb R}$}$$ ^2$ 上の $ X$(の$ R^2$ への持ち上げ)-不変なセクションに 対応させることができ、期待していた通り十分多くの $ X$-不変セクション を得ることが出来る。ただし、この話の $ V$ を適当な有限ランクのベクトル束に 置き換えることはできない。これは、$ X$ の積分曲線が非コンパクトなことに 起因している。



2002年11月24日