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代数学 II 要約 No.7

\fbox{体の自己同型}

定義 7.1 (定義6.3の再掲)   体 $k$ とその拡大体 $K$ が与えられているとする。 $K$$k$ 自己同型(あるいは、$k$ 上の自己同型)とは、 $K$ から $K$ への同型 $\phi$ であって、 任意の $x\in k$ に対して $\phi(x)=x$ が成り立つものを言う。

定理 7.1   体 $K$ とその部分体 $k$ が与えられていて、$k$ 上の $K$ の自己同型 $\sigma$ があったとする。このとき、$K$ の任意の元 $x$ に対して、 $x$$\sigma(x)$ とは共役である。

この定理を元にして、与えられた体がどのくらい自己同型をもつか決定できる。

例 7.1   $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2}]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上の自己同型がどのくらいあるか求めてみよう。 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2}]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上の自己同型の一つを $\sigma$ とすると、 上の定理により、 $\sigma(\sqrt{2})$$\sqrt{2}$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上 共役でなくてはならない。 そのことから、$\sigma$ は次の二つのどちらかしかないことがわかる。
1.
$\sigma(a+b\sqrt{2})=a+b\sqrt{2} \quad (a,b,\in \mbox{${\Bbb Q}$ })$ (恒等写像)
2.
$\sigma(a+b\sqrt{2})=a-b\sqrt{2} \quad (a,b,\in \mbox{${\Bbb Q}$ })$

補題 7.1   体 $K$ とその部分体 $k$ が与えられているとする。 このとき、$K$$k$ 上の自己同型全体は(写像の同型に関して)群をなす。

定義 7.2   上の補題の群を $K$$k$ 上の自己同型群といい、 $\operatorname{Aut}_k(K)$ と書きあらわす。

補題 7.2   もし $K$$k$ 上環として $x_1,x_2,\dots, x_n$ で生成されているならば、 $K$$k$ 上の自己同型 $\sigma$ $\sigma(x_1),\dots,\sigma(x_n)$ に よって一意に決まる。

注意:上の補題で``環として''と書いた部分を``体として''に置き換えても 補題は成立する。証明の手間もほぼかわらない。

上の補題と、定理7.1 を用いると、体の自己同型がどのくらいあるか だいたいわかる。

例 7.2   $\operatorname{Aut}_{\mbox{${\Bbb Q}$ }}(\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2}])\cong{\mbox{${\Bbb Z}$ }}/2{\mbox{${\Bbb Z}$ }}.$

例 7.3   $\operatorname{Aut}_{\mbox{${\Bbb R}$ }}({\Bbb C})\cong{\mbox{${\Bbb Z}$ }}/2{\mbox{${\Bbb Z}$ }}.$

例 7.4   $\operatorname{Aut}_{\mbox{${\Bbb Q}$ }}(\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2},\sqrt{5}])\...
... Z}$ }}/2{\mbox{${\Bbb Z}$ }}\times {\mbox{${\Bbb Z}$ }}/2{\mbox{${\Bbb Z}$ }}.$

例 7.5   $\operatorname{Aut}_{\mbox{${\Bbb Q}$ }}(\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt[3]{2}])=1.$

下の二例(および問題)では、 $\omega=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}$ とおく。

例 7.6   $\operatorname{Aut}_{\mbox{${\Bbb Q}$ }}(\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt[3]{2},\omega])=\frak{S}_3$ (三次対称群).

例 7.7   $\operatorname{Aut}_{\mbox{${\Bbb Q}$ }[\omega]}(\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt[3]{2},\omega])={\mbox{${\Bbb Z}$ }}/3{\mbox{${\Bbb Z}$ }}$ (三次対称群).

上の例でも見られるように、自己同型の定義から次のことが成り立つことがわかる。

補題 7.3   三つの体 $K,M,k$ があって、 $K\supset M\supset k$ がなりたつとき、 $ \operatorname{Aut}_M(K)$ $\operatorname{Aut}_k(K)$ の部分群である。

今回は、問題7.1 は出席番号が奇数番号の人用、 問題7.2 は出席番号が偶数番号の人用とする。(7.3,7.4にはとくに制限は ない。但しそれなりに難しい。)

問題 7.1   $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{3},\sqrt{5}]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上の自己同型 $\sigma$ が、

\begin{displaymath}\sigma(\sqrt{3})=-\sqrt{3},\quad \sigma(\sqrt{15})=\sqrt{15}
\end{displaymath}

を満たしたとする。このとき、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{3},\sqrt{5}]$ の元

\begin{displaymath}x=a+b\sqrt{3}+c\sqrt{5}+d\sqrt{15} \quad (a,b,c,d\in \mbox{${\Bbb Q}$})
\end{displaymath}

$\sigma$ によってどのような元に写されるか( $\sigma(x)$ はいくらか) 述べよ。さらに、この $\sigma$ は実際に

\begin{displaymath}\sigma(x)\sigma(y)=\sigma(xy)
\end{displaymath}

をみたすことを、
\begin{align*}&x=a+b\sqrt{3}+c\sqrt{5}+d\sqrt{15} \quad (a,b,c,d\in \mbox{${\Bbb...
...\sqrt{3}+r\sqrt{5}+s\sqrt{15} \quad (a,b,c,d\in \mbox{${\Bbb Q}$ })
\end{align*}
とおいて確かめてみよ。

問題 7.2   $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2},\sqrt{7}]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上の自己同型 $\sigma$ が、

\begin{displaymath}\sigma(\sqrt{2})=-\sqrt{2},\quad \sigma(\sqrt{14})=\sqrt{14}
\end{displaymath}

を満たしたとする。このとき、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2},\sqrt{7}]$ の元

\begin{displaymath}x=a+b\sqrt{2}+c\sqrt{7}+d\sqrt{14} \quad (a,b,c,d\in \mbox{${\Bbb Q}$})
\end{displaymath}

$\sigma$ によってどのような元に写されるか( $\sigma(x)$ はいくらか) 述べよ。さらに、この $\sigma$ は実際に

\begin{displaymath}\sigma(x)\sigma(y)=\sigma(xy)
\end{displaymath}

をみたすことを、
\begin{align*}&x=a+b\sqrt{2}+c\sqrt{7}+d\sqrt{14} \quad (a,b,c,d\in \mbox{${\Bbb...
...\sqrt{2}+r\sqrt{7}+s\sqrt{14} \quad (a,b,c,d\in \mbox{${\Bbb Q}$ })
\end{align*}
とおいて確かめてみよ。

問題 7.3  

1.
$x^4+x^3+x^2+x+1=0$ をみたす複素数 $x$ をすべてもとめよ。(そのうちの 一つを $\alpha$ とおく。 (ヒント: 全体を $x^2$ でわり、 $y=x+\frac{1}{x}$ に関する二次方程式をまずとけ。)
2.
$\mbox{${\Bbb Q}$ }[\alpha]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上の自己同型群を求めよ。

問題 7.4  

1.
$K=\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt[3]{2},\omega]$ のなかで、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ $\sqrt[3]{2}+\omega$と共役なものを全てもとめなさい。(それらを $\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3, \alpha_4, \alpha_5, \alpha_6$ とおく。)

2.
$S=\{\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3, \alpha_4, \alpha_5, \alpha_6\}$ からそれ自身の全単射の中で、$K$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上の自己同型からは 決して得られないもの(つまり、$K$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上の自己同型に 拡張できないもの)を作りなさい。 (もちろん理由(なぜ拡張できないのか)も書くこと。)


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Yoshifumi Tsuchimoto
2000-06-05