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代数学 II 要約 No.10

\fbox{正規拡大}

定義 10.1   体 $k$ とその拡大体 $L$ が与えられているとする。 $k$ 上の多項式 $f(X)\in k[X]$ が、$L[X]$ のなかでは一次式の積に分解する とき、$L$$f$ の分解体であると呼ぶ。

補題 10.1   体 $k$ が与えられているとする。 任意の 多項式 $f$ に対して、 $f$ の分解体が存在する。 すなわち、 $k$ のある拡大体 $L$ が存在して、 $f$$L[X]$ のなかで一次式に分解する。

補題 10.2   体 $k$ とその拡大体 $L$ が与えられているとする。 $L$ の元 $x$ があったとし、その $k$ 上の最小多項式が $f$ であったとする。 このとき、つぎは 同値である。
1.
$f$$L$ のなかでは一次式の積に分解する。
2.
$L$ の任意の拡大体 $\frak K $ に対して、$\frak K $ 内の $k$ 上の $x$ の共役 はすべて $L$ に属する。

定義 10.2   上の同値な条件のうち一方(したがって、両方)がなりたつとき、 「$x$$k$ 上の全ての共役は $L$ に属する」という。

本来、共役という言葉はどの拡大体の中で考えているか明確にしないと意味を もたないはずだが、 上の状況ではすでに $L$ だけで十分だから気にしなくてよい、ということである。

補題 10.3   対称式はすべて基本対称式の多項式で書ける。 すなわち、可換環 $R$ と、$R$ 上の多項式 $f\in R[X_1,X_2,\dots,X_n]$ が 与えられていて、$f$ が対称式ならば、 $R$ 上のある多項式 $g\in R[S_1,\dots,S_n]$ があって、

\begin{displaymath}f(X_1,\dots,X_n)=g(s_1(X_1,\dots,X_n),\dots,s_n(X_1,\dots,X_n))
\end{displaymath}

( $s_1,\dots s_n$ は基本対称式) がなりたつ。

定理 10.1   体 $k$ およびその拡大体 $L$ が与えられているとする。 このとき、

\begin{displaymath}\{x\in L; \text{$x$ の $k$ 上の全ての共役は $L$ に属する。}\}
\end{displaymath}

$k$ を含む $L$ の部分体である。

定義 10.3   体 $k$ の有限次拡大体 $L$ が与えられているとする。 $L$ の任意の元 $x$ にたいして、 $x$$k$ 上の共役は全て $L$ に属するとき、 $L$$k$ の正規拡大体であるという。

定理 10.2   体 $k$ と、その有限次代数拡大体 $L=k[\alpha_1,\alpha_2,\dots,\alpha_n]$ が与えられているとする。このとき、$L$$k$ の正規拡大体であるための 必要十分条件は、 $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ それぞれの $k$ 上の全ての 共役が $L$ に属することである。

例 10.1  

1.
$\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2}]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{2},\sqrt{3}]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ の正規拡大である。
2.
$\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt[3]{2}]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ の正規拡大ではない。
3.
$\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt[3]{2},\omega]$ (ただし $\omega=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}$)は $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ の正規拡大である。

問題 10.1   $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt[3]{5}+2\omega]$(ただし $\omega=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}$)は $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ の正規拡大か、否か。 理由を述べて答えなさい。

問題 10.2   有限体 $k$ の有限次拡大体 $L$ はかならず $k$ の正規拡大であることを示しなさい。 ヒント:有限体 $L$ の元 $x$ はかならずある方程式をみたす。 それはなにか。



Yoshifumi Tsuchimoto
2000-06-19