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代数学 II 解答 No.5

問題 5.1(前半)

$\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+3)$ との間の同型写像を一つ作りなさい。

(解答)

以下では多項式 $f\in Q[X] $ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)$, $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+3)$ でのクラスを それぞれ $\tilde{f}, \bar{f}$ という風に表記することにする。

$\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+3)$ の元 $a$ を、

\begin{displaymath}a=\frac{\overline{X}-1}{2}
\end{displaymath}

で定義すると、$a$

\begin{displaymath}a^2+a+1=0
\end{displaymath}

を満たすことが容易にわかる。 ゆえに、環準同型写像
\begin{alignat*}{2}
\varphi:
&\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)&\to &\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+3)\\
&\widetilde{p(X)} &\mapsto &p(a)
\end{alignat*}
がうまく定義される。 $X^2+X+1$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上既約であるから、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)$ は体。ゆえに、 この環準同型写像 $\phi$ は単射である。 他方、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+3)$ の元として、

\begin{displaymath}\bar{X}=2a+1
\end{displaymath}

であるから、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+3)$$a$ によって生成される。 したがって、$\phi$ は全射であることがわかる。

(考え方) $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+3)$ のように、同じ集合 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]$ を 二つの異なるやり方で類別することは、よく行われることではあるが、 諸君はかなり混乱していたようである。 したがって、以下ではちょっと記号を変えて、

\begin{displaymath}\mbox{${\Bbb Q}$}[X]/(X^2+X+1)\cong\mbox{${\Bbb Q}$}[Y]/(Y^2+3)
\end{displaymath}

という同型の作り方を考えてみることにしよう。上の解答と同様に、 $f(X)\in \mbox{${\Bbb Q}$ }[X]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)$ でのクラスは $\tilde{X}$, $g(Y)\in \mbox{${\Bbb Q}$ }[Y]$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[Y]/(Y^2+3)$ でのクラスは $\bar{Y}$ で表記することにする。

順を追って見てみよう。

[step 1] $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)$ では、 $\tilde{X}$ $\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}$ と 同じ役目をし、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[Y]/(Y^2+3)$ では、$\bar{Y}$$\sqrt{-3}$ と 同じ役目をしている。$\sqrt{-3}$ が両方にでて来る所がポイントである。

[step 2] 互いに歩み寄ってみる。 step 1から、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)$ では、 $2\tilde{X}+1$ が、$\sqrt{-3}$ と 同じ役目をしているし、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[Y]/(Y^2+3)$ では、 $\frac{\bar{Y}-1}{2}$ $\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}$ の役目をしている。

この問いではどちらの体からでも他方の体に向けての 同型写像が定義できる。その定義のもとになるのはこの考察である。

[step 3] 同じ役目をしているもの同士を対応させる。

ここでは考えをしぼるために、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[X]/(X^2+X+1)$ から $\mbox{${\Bbb Q}$ }[Y]/(Y^2+3)$への対応を考えることにしよう。このさい、基本的になるのは、

$\tilde{X}$ はどの元に対応させるべきか。

である。$\tilde{X}$ と同じ働きをする元に対応させねばならない。 step 2 から、 $\frac{\bar{Y}-1}{2}$ を対応させればよかろう、 ということになる。

[step 4] $\tilde{X}$ $a=\frac{\bar{Y}-1}{2}$ を対応させるとして、 あとのものはどう対応するのか。 対応が準同型になるためには、
\begin{align*}&\tilde{X} \mapsto a\\
&\tilde{X}^2 \mapsto a^2\\
&\tilde{X}^3 \...
...3\\
&\tilde{X}^4 \mapsto a^4\\
&\tilde{X}^5 \mapsto a^5\\
&\dots
\end{align*}
と対応せねばならない。このことから、たとえば、

\begin{displaymath}\phi(6\tilde{X}^3+5\tilde{X}+2) =6a^3+5a+2
\end{displaymath}

と対応させるべきであることがわかる。 このような式を一般的に書くと、

\begin{displaymath}\phi(\widetilde{p(X)})=p(a)
\end{displaymath}

となるわけである。一見抽象的に見える式も、意味さえわかれば 大したことがないことに気づくと思う。

しかし、今回のレポートではわけもわからずに「猿真似」して 変な式を書いてある答案も多かった。

[step 5] 対応はうまく定義されているか? ようは、

\begin{displaymath}\widetilde{p(X)}=\widetilde{q(X)} \implies p(a)=q(a)
\end{displaymath}

が成り立っているか?ということになるわけだ。 これは定理4.3 の議論の内容である。準同型定理の意味が問われている、 と言ってもよい。

あとは解答に述べた通りである。

(後半) $\sqrt{2}+3\sqrt{5}+4\sqrt{10}$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{5}]$ 上の最小多項式を 求めなさい。


\begin{displaymath}X^2-6\sqrt{5}X-117-16\sqrt{5}\quad (=(X-3\sqrt{5})^2-2(1+4\sqrt{5})^2)
\end{displaymath}

実際、 $X=\sqrt{2}+3\sqrt{5}+4\sqrt{10}$ はこの多項式の根である。

この多項式が $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{5}]$ 上既約であることは、次のようにしてわかる。 もし、この多項式(二次式)が $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{5}]$ 上既約でなければ、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{5}]$ のなかに根 $x$ をもつはずである。この $x$ に対して、

\begin{displaymath}y=\frac{x-3\sqrt{5}}{1+4\sqrt{5}}
\end{displaymath}

とおくと、

\begin{displaymath}y^2=2
\end{displaymath}

すなわち $y$ $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{5}]$ のなかで $2$ の平方根を 与えていることがわかる。 これは、いつもの手法を使って、矛盾を生じることがわかる。 ゆえに、実際にはそのような $x$ はなく、当該多項式は既約であることがわかった。

(考え方)

\begin{displaymath}\lambda=\sqrt{2}+3\sqrt{5}+4\sqrt{10}
\end{displaymath}

とおく。この式で、 $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{5}]$ の元に着目しながら

\begin{displaymath}\lambda=3\sqrt{5}+(1+4\sqrt{5})\sqrt{2}
\end{displaymath}

とまとめてみると、$\sqrt{2}$ の部分が $\mbox{${\Bbb Q}$ }[\sqrt{5}]$ に入らない問題の部分だと 気づく。これを消すには、 $\sqrt{2}$ の部分を二乗するかたちにもっていけばいい。 すなわち、まず、

\begin{displaymath}\lambda-3\sqrt{5}=(1+4\sqrt{5})\sqrt{2}
\end{displaymath}

と移項して、両辺を二乗すればよい。あとは単純計算である。



Yoshifumi Tsuchimoto
2000-05-23