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代数学特論 I 要約 No.1

\fbox{本講義の目的}

$R$ が 体 $k$ 上の 1変数多項式環 $k[X]$ のときと 整数環 $\mathbb Z$ の時のそれぞれについて、 $R$ のイデアル $I$ と、$R/I$ の様子を、とくに $R/I$ が整域でない時を 中心に調べる。

今日のテーマ:

\fbox{環の直積分解}

定義 1   $R_1,R_2$ は単位元をもつ環であるとする。 このとき、$R_1,R_2$ の環としての直積 とは、デカルト積集合 $R_1\times R_2$ の上に、 次のような演算を定義した物である。

\begin{displaymath}(a,b) + (c,d)=(a+c,b+d), \quad (a,b)\times (c,d)= (ac,bd)
\end{displaymath}

$R_1$$R_2$ の環としての直積を、普通 $R_1\times R_2$ と書く。

補題 1   $R_1,R_2$ は環であるとする。このとき、
1.
$R_1\times R_2$ は環になる。
2.
$R_1,R_2$ の単位元 がそれぞれ $1_{R_1},1_{R_2}$ とすると、 $R_1\times R_2$ の単位元は $(1_{R_1},1_{R_2})$ である。
3.
$R_1,R_2$ がともに可換ならば、 $R_1\times R_2$ も可換である。

定理 1   $R$ は単位元をもつ可換環であるとする。次の性質をもつ $R$ のイデアル $I,J$ が 存在すると仮定する。

$ \exists s \in I$ $\exists t \in J$ があって $s+t=1$ をみたす。

このとき、 $R/(I\cap J)$ $R/I\times R/J$ と同型である。

次の二つの補題を用いると、上の定理の適用例がたくさん作れる。

補題 2   単位元をもつ可換環 $R$ の元 $x,y,a,b$ が、関係式 $ax+by=1$ を満たせば、
1.
$I=(x),J=(y)$ は定理1 の仮定を満たす。
2.
$I\cap J=(xy)$ である。

補題 3   $R$ が PID で、 その二つの元 $x,y \in R\setminus \{0\}$ が共通の素因子をもたなければ、 $ax+by=1$ となる $R$ の元 $a,b$ が存在する。

系 1 (環の直積分解の具体例)  
1.
$\mathbb Z/12\mathbb Z$ $\mathbb Z/3\mathbb Z\times \mathbb Z/4\mathbb Z$ と同型である。
2.
$\mathbb C[X]/(X^2-X)$ $\mathbb C[X]/(X)\times \mathbb C[X]/(X-1)$ と同型である。

環の直積分解においては、二つの基本的な元が重要な役割を果たす。

補題 4  
1.
$R_1,R_2$ は単位元をもつ可換環であるとする。このとき $R_1\times R_2$の元 $e_1,e_2$ を、 $e_1=(1,0),e_2=(0,1)$ によって定めると、次のことが 成り立つ。

\begin{displaymath}e_1^2=e_1, e_2^2=e_2, e_1+e_2=1, e_1e_2=0
\tag ★
\end{displaymath}

2.
$R$ は単位元をもつ可換環であるとする。もし $R$ の元 $e_1,e_2$ で、 $(\text{★})$を満たすものが存在すれば、 $R$ $R/(e_1) \times R/( e_2)$ と 同型になる。

上の補題により、環を直積分解したいときには、 $(\text{★})$ を満たす 元 $e_1,e_2$ を探せばいいことがわかる。$e_1,e_2$ のことを (直積分解に対応する)射影と呼ぶ。

※三つの環 $R_1,R_2,R_3$ の直積も二つの場合と同様に定義される。 環 $(R_1\times R_2)\times R_3$ $R_1\times R_2\times R_3$ と 同型である。4つ以上でも同様。

問題 1.1  
諸君の出席番号を $k$ とする。(たとえば 97sm150 なら $k=150$)
1.
113 で割ったら 1 あまり、$353$$151$ で割ると割り切れる正の整数 $l$ で、最小のものを求めよ。

2.
ある整数 $n$$113$ で割ったら $1$ 余り、$353$ で割ったら $2$ 余り、 $151$ で割ったら $k$ 余ったとする。このとき、$n$ $113\times 353\times 151$ で 割った余りはいくらか?



Yoshifumi Tsuchimoto
2000-10-21