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代数学特論 I 要約 No.2

今日のテーマ:

\fbox{行列の固有値と弱固有空間}

今回は、$k$ といえば体を指すものとする。

定義 1   $M_n(k)$ の元 $A$ が与えられたとする。 もし $A$ の最小多項式とは、$f(A)=0$ を満たすような $f\in k[X]\setminus \{0\}$ のうち次数が最小のもののことである。

補題 1   $M_n(k)$ の元 $A$ が与えられたとする。このとき、
1.
$A$ の最小多項式 $f$ は定数倍を除いて一意に存在する。
2.
環としての同型 $k[A]\isoto k[X]/(f)$ がなりたつ。

補題 2   $M_n(k)$ の元 $A$ が与えられたとし、その最小多項式を $f$ とする。 このとき、任意の $a\in k$ に対して、

\begin{displaymath}\text{$A-aE $ は可逆行列}\ \iff\ f(a)\neq 0
\end{displaymath}

がなりたつ。

定義 2   $A$ の最小多項式 $f$ の根(重複は考慮しない)を $f$ の固有値と呼ぶ。

(注意) 重複を考慮した固有値の定義には次の Cayley-Hamilton の定理 が必要になる。

定理 1 (Cayley-Hamilton)   $n$-次の正方行列 $A$ に対して、その固有多項式 $\Phi_A$

\begin{displaymath}\Phi_A(X)=\det(XE-A)
\end{displaymath}

で定義する。このとき、 $\Phi_A(A)=0$ がなりたつ。

この定理の証明については次回に述べる。さしあたって今日(のレポート問題) はこの定理を眺めて $A$ の最小多項式の候補を見付けることだけで満足しておく ことにする。

直和分解と巾等行列の関係について復習しておこう。

補題 3   $P\in M_n(k)$ が巾等($P^2=P$) ならば、次のことが成り立つ。
1.
$Q=E-P$ も巾等であり、

\begin{displaymath}PQ=0, QP=0, P^2=P, Q^2=Q, P+Q=E
\end{displaymath}

がなりたつ。
2.
$k^n$ の元 $v$

\begin{displaymath}v=v_1+v_2 \quad (v_1\in \Image(P) , v_2\in \Image(Q))
\end{displaymath}

と一意的に書ける。(すなわち、$k^n$$\Image(P)$$\Image(Q)$ との 直和である。

補題 4   任意の $A\in M_n(k)$ と任意の $a\in k$ に対して次のような $k^n$ の直和分解 $k^n =V\oplus W $が存在する
1.
$AV \subset V$, $AW \subset W$.
2.
$V$ 上では $A-aE $ は巾零 $($つまり、$V$ 上の$A$ の最小多項式は $(X-a)^l$ $(\exists l)$.$)$
3.
$W$ 上では $A$ は可逆 $($つまり、$W$ 上の $A$ の最小多項式は $a$ を解にもたない$)$

補題 5   $A\in M_n(k)$ が与えられていて、その最小多項式 $f$$k$ 上の多項式として 一次式の積に分解できた

\begin{displaymath}f(X)=
(X-\lambda_1)^{e_1}
(X-\lambda_2)^{e_2}
(X-\lambda_3)^{e_3}
\dots
(X-\lambda_l)^{e_l}
\end{displaymath}

とする。このとき、 $k^n$ の直和分解

\begin{displaymath}k^n =V_1\oplus V_2\oplus V_3\oplus \dots \oplus V_l
\end{displaymath}

で、
1.
$AV_i\subset V_i$
2.
$V_i$ 上では $A-\lambda_i E $ は巾零
となるものが存在する。$V_i$ は次の諸性質を満たす。
1.
$V_i$ での $A$ の最小多項式はちょうど $(X-\lambda_i)^{e_i}$ である。
2.
$V_i=\{v\in k^n; A^Nv=0 \quad(\exists N>0) \}$
3.
$V_i=\{v\in k^n; A^{e_i}v=0 \}$
4.
ある $p_i\in k[X]$ があって、 $P_i=p_i(A)$ は巾等($P_i^2=P_i$)かつ、 $V_i=P_i( k^n)$ がなりたつ。

定義 3   $V_i$ のことを $A$ の固有値 $\lambda_i$ に属する弱固有空間と呼び、 $P_i$ のことを $V_i$ に対応する射影と呼ぶ。 。

問題 2.1   次の(複素数を成分にもつ)各行列の固有値(重複は考慮しない)と、 それに属する弱固有空間に対応する射影を全て求めよ。
1.

\begin{displaymath}\begin{pmatrix}
3 & 1 \\
-1 & 1
\end{pmatrix}\end{displaymath}

2.

\begin{displaymath}\begin{pmatrix}
5 & 2 \\
-3 & 0
\end{pmatrix}\end{displaymath}

3.

\begin{displaymath}\begin{pmatrix}
3 & 1 & 0 \\
-1 & 1 &0 \\
0 & 0 & 7
\end{pmatrix}\end{displaymath}


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Yoshifumi Tsuchimoto
2000-10-21