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グレブナ基底

定義 4.2   $R=k[X_1,\dots,X_n]$ の元の組 $\{f_1,\dots,f_l\}$$R$ のイデアル $I$ のグレブナ基底であるとは、 $I=(f_1,\dots,f_l)$ (つまり $I$ $\{f_1,\dots,f_n\}$ で生成される) であって、かつ次のことが成り立つときに言う。

$i,j$ に対して S-多項式 $ S(f_i,f_j)$ $f_1,\dots,f_n$ で割った余り は $0$ である。 (この時点では余りは一意的かどうかわからないので、 余りは「うまく割った余り」の 意味である)

補題 4.2   $R=k[X_1,\dots,X_n]$ の元の組 $\{f_1,\dots,f_l\}$$R$ のイデアル $I$ のグレブナ基底であるならば、(★)で定義される $T$ に対して、 $I\cap T=\{0\}$ がなりたつ。 すなわち、和

\begin{displaymath}R=I+T
\end{displaymath}

は($k$ 上のベクトル空間としての)直和である。 とくに、$R$ の任意の元を $\{f_1,\dots,f_l\}$ で割った余りは 一意に決まる。

証明のキモは、

(キモ) $I\cap T$ の元 $f$ をとると、$f$ は($I$ の元だから)

\begin{displaymath}f=\sum_i a_i f_i
\end{displaymath}

と書ける。$f$ のこのような表現のうちで、

\begin{displaymath}\max_i(\operatorname{Head}(a_i f_i))
\end{displaymath}

が最小になるようなものをとる。

というところにある。$f$$T$ にも属するためには このような表現の最高次の部分はキャンセルせざるを得ず、そこで S-多項式が 登場するわけだ。(「最小になるもの」の存在は少しトリッキーである。)

この補題を見れば、グレブナ基底さえ分かれば、割り算の余りを見るだけで イデアルに入るかどうかがわかることになる。

グレブナ基底を求めるには、 生成元から出発してそれらの $S$ 多項式を割った余りをさらに付け加えて行けばよい。 この操作がいつかは止まること、さらには体上の多項式環の任意のイデアルは 実は有限個の元で生成されること、は、また余裕があれば述べることにする。

レポート問題は1または2を選択すること。(1,はグレブナ基底を使わなくてもよい問題、 2. はグレブナ基底の問題である。)両方選択してもよいが、 評価されるのはどちらかよい方のみである。(したがって、「分かりません」 と書くだけの解答ならば二つ書いても無意味である。)

問題 4.1   ${\Bbb C}[X,Y]$ のイデアルに関する次の三つの関係式を示しなさい。
1.
$(X^2-Y^2-3,X^2+Y^2-5,X-Y-3)=(X-2,Y+1)$
2.
$(X^2-Y^2-3,X^2+Y^2-5,X-Y-3)\subset (X^2-Y^2-3,X^2+Y^2-5,Y+1)$
3.
$(X^2-Y^2-3,X^2+Y^2-5,X-Y-3)\neq (X^2-Y^2-3,X^2+Y^2-5,Y+1)$

問題 4.2   ${\Bbb C}[X,Y]$ のイデアル $I=(X((X-3)^2+(Y-4)^2-5^2),X(Y-X^3),X^3Y^4)$ のグレブナ基底を求め、 $XY-2X$$I$ の元ではないことを示しなさい。

1.,2. ともに純粋に計算問題だが、多分 $V(I)$ の概形を書いてみる方が 計算の目標がたてやすいだろう。



Yoshifumi Tsuchimoto
2001-05-24