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代数学 II 要約 No.7

今日のテーマ:

\fbox{ヒルベルトの基定理}

定理 7.1   体係数の多項式環 $k[X_1,\dots,X_n]$ の任意のイデアル $I$ は有限生成である。

本講義では多項式の先導項に着目した証明をあたえよう。 次の補題が重要である。

自然数の集合 $\Bbb N$$0$ を入れる立場と入れない立場があるが、 この講義では一貫して $\Bbb N=\{0,1,2,\dots\}$$0$ を入れる立場をとる。

補題 7.1  
1.
体係数の多項式環 $k[X_1,\dots,X_n]$ のイデアル $I$ に対して、

\begin{displaymath}L=\operatorname{Head}(I)=\{\operatorname{Head}(p); p\in I\}
\end{displaymath}

を考えると、 $L=\operatorname{Head}(I)$$\Bbb N^n$ の部分集合で、

\begin{displaymath}L+\Bbb N^n \subset \Bbb N^n
\tag{★}
\end{displaymath}

が成り立つ。
2.
$\Bbb N^n$ の部分集合 $L$ で、$($$)$を満たすものは必ず「有限生成」 である。すなわち、ある有限個の元 $l_1,\dots l_N \in L$ があって、

\begin{displaymath}L=
(l_1+\Bbb N^n)\cup
(l_2+\Bbb N^n)\cup
(l_3+\Bbb N^n)\cup
\dots \cup
(l_N+\Bbb N^n)
\end{displaymath}

が成立する。

多項式環のイデアル $I$ が与えられたときにそこに元が属するかどうかは 先導項をみながら割り算していけばよいので、上の補題からヒルベルトの基定理が 成立することを示すことができるというわけである。

ヒルベルトの基定理は大事でかつ基本的な定理である。 これはまたネータ環という言葉を用意してまとめておくこともできる。

補題 7.2   環 $R$ について次の条件は同値である。
1.
$R$ の任意のイデアルは有限生成である。
2.
$R$ のイデアルの増大列 $I_1 \subset I_2 \subset I_3 \subset \dots$ は必ずどこかで止まる。すなわち、ある $N$ があって、 $ I_N=I_{N+1}=I_{N+2}=\dots $がなりたつ。

定義 7.1   上の条件のうち一つ(したがって、両方)が成り立つような環をネータ環という。

ヒルベルトの基定理は、「体上の多項式環はネータ環である」といっておるわけだ。

問題 7.1   $\mbox{${\Bbb R}$ }[X,Y]$ のイデアルの無限減少列 $I_1 \supset I_2 \supset I_3 \supset \dots$ の例をあげなさい。



Yoshifumi Tsuchimoto
2001-05-25