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代数学特論 II 要約 No.12

今日のテーマ:

\fbox{変数の置換について対称な式3}

今回を通じて、 $L=k(X_1,\dots,X_n)$, $K=L^{\frak S_n}$ ($k$-上の $n$-変数 有理式のうちで、 $X_1,\dots,X_n$ の対称式であるもの全体) とおく。

定理10.1 で現れる

$\frak S_n$ の部分群 $H$ $\to$ $H$ による不変体 $L^H$

という対応は、じつは $\frak S_n$ の部分群と、$L$$K$ の 中間体($L$ の部分体で $K$ を含むもの) の間の一対一 対応を与えている。 この一般化がいわゆるガロア理論である。 この講義ではそこまで触れられなかったが、 定理10.1 の証明そのものは(4)を除きほぼ完結している。 ここではその証明の補遺になるものをいくつか問題としておく。

いま、 $\frak S_n$ の部分群 $H$ をとって、 さらに $\alpha\in L$ $L=K(\alpha)$ なるように選ぶと、 補題10.2 (と講義での注意)で証明した通り、

\begin{displaymath}F(T)=\prod_{\sigma\in H}(T-\alpha^{\sigma})
\end{displaymath}

$L^H$ 上の $\alpha$ の最小多項式になり、したがって $[L:L^H]=[L^H(\alpha):L^H]=\deg(F)=\vert H\vert$ がなりたつ。

このことから、定理10.1 の(1),(2),(3)はすぐに従う。

このような $\alpha$ の存在(補題10.3) を示すためには、 次のような問題を解けば良い。

問題 12.1   $L=k(X_1,\dots,X_n)$, $K=L^{\frak S_n}$ ($k$-上の $n$-変数 有理式のうちで、 $X_1,\dots,X_n$ の対称式であるもの全体) とおくとき、 $[L:K]$ を求めよ。

問題 12.2   補題10.3 の条件のもとで、 $\alpha_0=c_1X_1+c_2X_2+\dots c_nX_n$$K$ 上の共役元をすべて求めなさい。(それらは何個あるか?)

問題 12.3   上の二つの問題から、補題10.3 の従うことが分かる。それはなぜか。

定理10.1(4) を証明するのは今回の講義だけの知識では 少し足りない。どのような道筋で証明されるかは、 次の二つの問題の形式で出しておこう。解けなくても気にやむ必要はない。

問題 12.4   $L$$K$-同型、すなわち、$L$ から $L$ への環準同型 $\phi$ で 全単射であり、かつ $K$ の上では恒等写像であるものは、 $\frak S_n$ のある元 $\sigma $ による作用で与えられること、 すなわち、

\begin{displaymath}\phi(f)=f^{\sigma} \qquad (\forall f \in L)
\end{displaymath}

を示しなさい。

問題 12.5   $L$ の部分体 $M$$K$ を含むものをとると、
1.
$\alpha$$M$ 上の共役は全て $L$ に属する。すなわち、 $\alpha$$M$ 上の最小多項式 $m(T)$$L$ まで係数を拡大すると 必ず一次式の積に分解する。
2.
$m(T)$ の次数は $[L:M]$ に等しい。
3.
$\alpha$ の共役 $\beta$ をとると、 $L$$M$ 上の自己同型 $\phi$ で、 $\phi(\alpha)=\beta$ を満たすものが 存在する。
4.
$L$$M$ 上の体としての自己同型は $[L:M]$ 個以上ある。 
5.

\begin{displaymath}H=\{\sigma \in \frak S_n; \sigma(x)=x \quad \forall x \in M\}
\end{displaymath}

とおくと、$H$$\frak S_n$ の部分群で、 $L^H \supset M$.
6.
4 により、$H$ の位数 $\vert H\vert$$[L:M]$ 以上であることが分かる。
7.
他方、 $[L:M]\leq [L:L^H]=\vert H\vert$.
8.
以上により、$L^H=M$ が従う。

最後に、次のような問題を出しておこう。解けば不変式の知識が深まるに違いない。

問題 12.6   $n=5$ とする。 $\frak S_5$ の部分群 $H$ で、自明でないもの (つまり、$\{(1)\}$ でも $\frak S_5$ 自身でもないもの)を一つ挙げ、 $L^H$ の元 $f$$K$ の元ではないものを一つ挙げなさい。

できれば $f$ としてはもっと縛りのきついものをとって欲しい (ちょうど $H$ の元のみについて対称になるものを選んで欲しい)が、 それについては問わない。 この問題に限り一つの $H$ について一問と勘定することにする。 (ただし「単なる文字のつけかえ」すなわち例えば $H_1=\{(1),(1\ 2)\} $ $H_2=\{(1),(2\ 3)\}$ などは実質的に 同じであるから($f$ として違うものを挙げたとしても)同じ問題とみなす。)




2002-01-16