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代数学II 要約 No.9

今日のテーマ:

\fbox{有限体は元の数で完全に決まること II}

前回は復習止まりで、次の定理や命題を残してしまったので、今回はその証明をする。

定理 9.1 (定理8.1と同じ)   素数 $ p$ と正の整数 $ n$ に対して、 元の個数が % latex2html id marker 913
$ q=p^n$ であるような有限体 $ K$ が存在する(定理6.2)。 この $ K$ にたいして、次のことが成り立つ。
  1. $ K^\times$ の(群としての)生成元 $ a$ $ {\mathbb{F}}_p$ 上の最小多項式の 次数は $ n$ である。
  2. $ {\mathbb{F}}_p$ 上の $ n$ 次の既約多項式は必ず $ K$ で一次式の積に分解される。

命題 9.2 (命題8.3と同じ)   体 $ k$ の拡大体 $ K,L$ があって、$ K$ のほうは $ k$ 上一つの元 $ \alpha$ で生成される $ k$ の有限次拡大体であるとする。 さらに、$ \alpha$$ k$ 上の最小多項式を $ m$ とおく。 このとき、もし、$ L$ の元 $ \beta$ で、 $ m(\beta)=0$ を満たすものがあれば、 $ K$ から $ L$ への中への同型写像 $ \varphi$ で、 $ \varphi(\alpha)=\beta$ をみたすものが存在する。

定理 9.3 (定理8.4と同じ)   体 $ K_1$, $ K_2$ の元の数がともに有限で、同じ % latex2html id marker 971
$ q$ であるなら、 $ K_1$$ K_2$ とは同型である(すなわち、$ K_1$ から $ K_2$ への上への 同型写像 $ \varphi$ が存在する。

$ K^\times$ の構造を知ると、次のような問題も片付けられる。 (とは言ってもこれは Fermat の定理(あるいは群論の Lagrange の定理) の範疇である。)

問題 2.3 一般に、素数 $ p$ に対して、 10進法で書いた整数を $ p$ で割っ た余りを「一定の桁数毎に区切って」 求める方法はいつでも存在するだろう か? (但しもちろん $ p= 2$$ p=5$ の場合は例外とする。)

問題 4.2 $ K={\Bbb F}_{37}[X]/(X^3-X+2){\Bbb F}_{37}[X]$ での $ X$ のクラスを $ \xi$ と書くとき、 $ K$ での $ 12 \xi^2+5\xi+1$ の逆元を求 めなさい。 (なお、この $ K$ は実は体であるのだが、そこまでは示さなくて もよい。)

(解説) 諸君のレポートを見ると、 $ {\Bbb F}_{37}[X]/(X^3-X+2){\Bbb F}_{37}[X]$ のようなものの扱いについて 理解できている人と、できてない人の差がはっきり分かれてきているのがわかる。

$ {\mathbb{F}}_{37}$ についてはわかっているようだし、 $ {\mathbb{F}}_{37}[X]$ も大丈夫だろう。 あとは それを $ (X^3-X+2){\mathbb{F}}_{37}[X]$ で割った剰余環の理解が欠けているのだろう。

問題の $ K$ で、$ X$ のクラスを($ X$ とそのまま表記しても良いし、 $ \overline{X}$ あるいは $ [X]$ のような記号でもよいのだが、ここでは 字画を減らすために) $ \xi$ と書くと、$ K$ とは、 $ {\mathbb{F}}_{37}$ に、 $ \xi^3-\xi+2=0$ という関係式をもった元 $ \xi$ を 付け加えてできる環である。 $ \xi^3-\xi+2=0$ という関係式から、

$ 3(\xi^3-\xi+2)=0$, $ \xi(\xi^3-\xi+2)=0$, $ (\xi^2+30\xi+23)(\xi^3-\xi+2)=0$ 等々の関係式が得られるはずである。また、

$ \xi^3=\xi-2$, $ \xi^4=\xi^2-2\xi$

などの関係式も得られる。このような環をそもそも作れるかどうか、ということも 大事なことなのだが、これが多項式の全体 $ {\mathbb{F}}_{37}[X]$$ X^3-X+2$ の 倍数で類別するという例のやり方で正当化されているのだ。 つまり、関係式 $ \xi^3-\xi+2=0$ をもつような $ \xi$ $ {\mathbb{F}}_{37}$ に 付け加えるというだけでは、(全く何の知識もない初歩の段階では) それがうまくできるかどうかがわからないが、 $ {\mathbb{F}}_{37}$-係数の多項式の全体 $ {\mathbb{F}}_{37}[X]$$ (X^3-X+2)$ の倍数を 法としてクラス分けする

$\displaystyle f \sim g \ {\Leftrightarrow}\ f-g \in (X^3-X+2){\mathbb{F}}_{37}[X]
$

ということはできるはずであるし、そのクラス分けをしたクラスの全体 $ K={\mathbb{F}}_{37}[X]/(X^3-X+2){\mathbb{F}}_{37}[X]$ が環の構造をもつこと、さらには $ X$$ K$ でのクラスが上述の関係式を満たすことも 確かめられるというわけである。

ちょうど、 $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/9{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ では $ 9=0$ が成り立つことや、 $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/11{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ では $ 11=0$ が 成り立つことと同様である。

問題 9.1   $ p=5$ とする。 $ {\mathbb{F}}_p$ 上のモニックな4次既約多項式 $ f$ の例を挙げ、 $ f$ の一つの根を $ \alpha$ とした時、$ f$ の他の根を $ \alpha$ であらわしなさい。 (つまり、$ f$ $ {\mathbb{F}}_p[\alpha]$ 上で一次式の積に分解しなさい。)

上の問題は少し難しすぎたかも知れないので、 次の問題を追加しておく。こちらは少し簡単である。

問題 9.2   上の問題で $ p=3$ のときはどうか。

両方の問題とも、$ f$ の既約性まで論じることが望ましい。



2002年6月18日