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代数学特論II 要約 No.3

今日のテーマ:

\fbox{行列の単因子}

前回の流れから行くと、行列 $ A$ をまず弱固有空間ごとに分けて考えて、 それぞれの部分で $ A$ の標準型を考えるのが自然であるのだが、 若干見方をかえて加群の理論から話を進めよう。 $ n$ 次正方行列 $ A \in M_n({\mathbb{C}})$ が与えられているとする。$ A$

$\displaystyle V={\mathbb{C}}^n ={\mathbb{C}}e_1+{\mathbb{C}}e_2 + {\mathbb{C}}e_3+\dots {\mathbb{C}}e_n
$

に作用する。但し、ここに、$ e_i$ は基本ベクトルである。$ V$ には、多項式環 $ {\mathbb{C}}[X]$ が、

% latex2html id marker 834
$\displaystyle X. v= A v \qquad ($ 一般に $\displaystyle p(X). v =p(A) v)
$

(右辺は行列とベクトルのかけ算)として作用している。ドット (.) に注意。 作用を考えるときにはいつでもこのドットをつける。

さて、$ V$ の成分を多項式に拡張して、

% latex2html id marker 839
$\displaystyle F_0={\mathbb{C}}[X]^n
=\left\{
\begi...
..._n(X)
\end{pmatrix} ; a_i (X)\in {\mathbb{C}}[X] \quad(i=1,2,\dots,n)
\right\}
$

というのを考えよう。$ F_0$ の元 $ {}^t(a_1(X),a_2(X),\dots,a_n(X))$ というのは 形式的に

$\displaystyle \begin{pmatrix}
a_1(X)\\
a_2(X)\\
a_3(X)\\
\vdots\\
a_n(X)
\end{pmatrix}
=a_1(X) e_1 +a_2(X) e_2+a_3(X) e_3+ \dots + a_n(X)e_n
$

と書くこともできる。こっちのほうはドットがつかないことに注意。 ドットや、行列の積との区別を強調するために、こちらのほうのことを

$\displaystyle \begin{pmatrix}
a_1(X)\\
a_2(X)\\
a_3(X)\\
\vdots\\
a_n(X)
\e...
...(X)\otimes e_1 +a_2(X)\otimes e_2+a_3(X)\otimes e_3+ \dots + a_n(X)\otimes e_n
$

と書くこともある。($ \otimes$ はテンソル記号と呼ばれる。)

テンソル記号をドットに置き換える操作を $ \phi$ と書こう。 すなわち、 $ \phi: F_0 \to V$

$\displaystyle \phi$ $\displaystyle (a_1(X) \otimes e_1+ a_2(X) \otimes e_2+ a_3(X)\otimes e_3 +\dots+ a_n(X)\otimes e_n)$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle a_1(X). e_1+ a_2(X) . e_2+ a_3(X). e_3 +\dots+ a_n(X). e_n$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle a_1(A) e_1+ a_2(A) e_2+ a_3(A) e_3 +\dots+ a_n(A) e_n$    

で定義する。

$ \phi$ は線型写像で、全射であることはすぐに分かる。 $ \phi$ の核は、次のような線型写像の像と一致する。

$\displaystyle \psi:
F_1={\mathbb{C}}[X]^n \ni L \mapsto (X E -A) L\in {\mathbb{C}}[X]^n=F_0
$

$ \psi$$ F_1$$ F_0$ の基底を取り換えることによって、できるだけ やさしい表示にすること、これがポイントである。 実は、 $ X E-A$ のような特殊な元に限らず、そのようなやさしい表示がある。

すなわち、 $ {\mathbb{C}}[X]$ ではユークリッド除法(余りを許した割り算)ができることから、 「掃き出し法」が使えて、次のような命題が成り立つ。

命題 3.1   $ M_n({\mathbb{C}}[X])$ の元 $ B$ に対して、 $ {\mathbb{C}}[X]$ の元を成分にもつ行列 $ P,Q$ で、 $ \operatorname{det}(P)=1,\operatorname{det}(Q)=1$ を満たし、

$\displaystyle P B Q=
\begin{pmatrix}
d_1(X) \\
& d_2 (X) \\
& & d_3(X) \\
& ...
... \\
& & & & & & 0 \\
& & & & & & & \ddots \\
& & & & & & & & 0
\end{pmatrix}$

(ただし $ d_1(X) \vert d_2(X) \vert d_3(X) \vert\dots \vert d_s(X)$) という形にできるものが存在する。

上の $ d_1(X) ,d_2(X), d_3(X) ,\dots , d_s(X)$$ B$ の単因子と呼ばれる。

上の $ P,Q$ はそれぞれ 次のような「基本変形」を具体的に表現するような行列の積である。

  1. $ P$ ...(行変形) $ B$ のある行の多項式倍を $ B$ の別の行に加える。
  2. $ Q$ ...(列変形) $ B$ のある列の多項式倍を $ B$ の別の列に加える。

この続きは次回にまわす。

問題 3.1   $ {\mathbb{C}}[X]$ の元を成分にもつ $ 3$ 次の正方行列

$\displaystyle B=
\begin{pmatrix}
X & 1 & 0 \\
0 & X^2 & 1 \\
0 & 0& X^3
\end{pmatrix}$

に対して、命題 3.1を満たす $ d_1,d_2,\dots,d_r$ および $ P,Q$ を具体的に求めなさい。



平成15年10月21日