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代数学特論II 要約 No.4

今日のテーマ:

\fbox{行列のジョルダン標準型}

先週に引き続き、 $ n$ 次正方行列 $ A \in M_n({\mathbb{C}})$ が与えられているとする。$ A$

$\displaystyle V={\mathbb{C}}^n ={\mathbb{C}}e_1+{\mathbb{C}}e_2 + {\mathbb{C}}e_3+\dots {\mathbb{C}}e_n
$

に作用する。前回やったように、次のような $ \phi,\psi$ がある。

$\displaystyle F_1 \overset{\psi}{\to} F_0 \overset{\phi}{\to} V
$

但し、 $ F_0,F_1$ はモノとしては同じで、

% latex2html id marker 924
$\displaystyle F_0=F_1={\mathbb{C}}[X]^n
=\left\{
\...
..._n(X)
\end{pmatrix} ; a_i (X)\in {\mathbb{C}}[X] \quad(i=1,2,\dots,n)
\right\}
$

である。 $ \phi: F_0 \to V$

$\displaystyle \phi$ $\displaystyle (a_1(X) \otimes e_1+ a_2(X) \otimes e_2+ a_3(X)\otimes e_3 +\dots+ a_n(X)\otimes e_n)$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle a_1(X). e_1+ a_2(X) . e_2+ a_3(X). e_3 +\dots+ a_n(X). e_n$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle a_1(A) e_1+ a_2(A) e_2+ a_3(A) e_3 +\dots+ a_n(A) e_n$    

で、 $ \psi$

$\displaystyle \psi:
F_1={\mathbb{C}}[X]^n \ni L \mapsto (X E -A) L\in {\mathbb{C}}[X]^n=F_0
$

で定義されるような写像であった。

これは、次のような問題を解いていることに当たる。

$ V$ の各元は複素数倍と和を用いて $ e_1,e_2,\dots,e_n$ でうまく表示できたが、 $ X$ も一緒に用いるとどのぐらいうまく表示できるだろうか。

先週の単因子をもちいると、次のような単純な解答がある

定理 4.1   $ V$ $ {\mathbb{C}}[X]$-加群として $ {\mathbb{C}}[X]/d(X){\mathbb{C}}[X]$ の形の加群の 直和と同型である。

とくに、巾零行列の表現空間は、 $ {\mathbb{C}}[X]/X^k {\mathbb{C}}[X]$ の形の加群の 直和に分解される。

この定理を行列の言葉で書くとジョルダンの標準型が得られる。

例を挙げよう。

$\displaystyle A=
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
-1 & 4
\end{pmatrix}$

とする。$ X$ $ V={\mathbb{C}}^2$ への作用を $ X.v= A v $ で定めると、

% latex2html id marker 961
$\displaystyle X . e_1= e_1-e_2, \quad X. e_2=2 e_1-4 e_2
$

これは次のような行列算で表現できる。

$\displaystyle (e_1 \ e_2) (X E -A )=0
$

$ X E -A$ を前回やったように

$\displaystyle P (X E -A)Q =
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & X^2-5 X +6
\end{pmatrix}$

と書いてみる。ただし

% latex2html id marker 969
$\displaystyle P=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
-1 & X-1
\end{pmatrix},\qquad
Q=
\begin{pmatrix}
1 & -X+4 \\
0 & 1
\end{pmatrix}$

である。すると、 $ {\mathbb{C}}[X]$-加群としては $ e_1, e_2$ のかわりに

$\displaystyle (e_1 \ e_2) P^{-1}= ((X-1)e_1+e_2\ -e_1)=(0\ -e_1)
$

の第一、第二成分である $ 0, -e_1$ を用いるのが便利だということになる。

$\displaystyle (0 \ -e_1) P= (e_1\ e_2)
$

すなわち、 $ e_1=-(-e_1), \ e_2=(X-1).(-e_1)$ が成り立つ ということにも注意しておこう。

関数の設計。 No2.のレポート問題は少し難しかったようである。問題は、$ X$ の関数 $ f$ で、 次のような性質をもつものをつくりだすところにある。

  1. $ f$$ 1$ で 零点をもつ。 すなわち、$ f$$ (X-1)$ で割り切れる。
  2. $ f$ は、$ 3$ で三重の零点をもつ、 すなわち、$ f$$ (X-3)^3$ で割り切れる。
  3. $ f$ は、$ 2$ で 二重の「$ 1$」点をもつ、 すなわち、$ 1-f$$ (X-2)^2$ で割り切れる。
(同様のものを3つ作る必要がある。)

(ア)もっとも手軽な方法は、次のようにすることであろう。

Step 1..
$ f_0=(X-1)(X-3)^3$ を考える。 ($ f_0$ は上の (1),(2)の条件を満たす。)
Step 2..
% latex2html id marker 1017
$ f_0(2)\neq 0$ なので、 $ f_1=\frac{1}{f_0(2)}f_0$ とおく。 (これで $ f_1$ は 上の条件を満たすうえ、$ f_1(2)=1$ をも満たしている。
Step 3..
$ (1-f)$$ X=2$ で零点をもつが、二重の零点をもつような関数を 作るには $ (1-f)^2$ と、それを二乗してやればよいことに注意する。
Step 4..
$ f_2=1-(1-f)^2$ を考えれば、これは上の条件(1),(2),(3)を全て満たしている。

この方法は、求める関数が確かに存在することを保証するには明解で便利であるが、 次数が若干高くなるのが欠点である。 そこで、

(イ) $ 1/((X-1)(X-2)^2(X-3)^3)$ を部分分数展開する方法もある。

  $\displaystyle \frac{1}{(X-1)(X-2)^2(X-3)^3}$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{a_1}{(X-1)} +\frac{a_2}{(X-2)} +\frac{a_3}{(X-2)^2} +\frac{a_4}{(X-3)} +\frac{a_5}{(X-3)^2} +\frac{a_6}{(X-3)^3}$    

とやって、 $ a_1,a_2,\dots,a_6$ を(留数その他の方法で)求めて、 そこから $ f$ を計算するのである。例えば $ a_3$ を研究するには 両辺に $ (X-2)^2$ を掛けてから $ X=2$ を代入すれば (あるいは、$ X\to 2$ の極限をとれば)よい。 $ a_2$ は 両辺に $ (X-2)^2$ を掛けたあと一度 $ X$ で微分して、 それから $ X=2$ を代入することでもとめられる。

(ウ) 前回の講義の最後にやったように、$ 1,2,3$ でそれぞれ $ 1,0,0$, $ 0,1,0$, $ 0,0,1$ という値をとるような多項式 % latex2html id marker 1066
$ q_1,q_2,q_3(=1-q_1-q_2)$ をとり、 % latex2html id marker 1068
$ q_1+q_2+q_3=1$ の両辺の高い巾を計算する。すなわち、

% latex2html id marker 1070
$\displaystyle (q_1+q_2+q_3)^N=1^N
$

を考えるという手もある。左辺を展開して出てくる項は

% latex2html id marker 1072
$\displaystyle q_1^{e_1} q_2^{e_2} q_3^{e_3} \qquad (e_1+e_2+e_3=N)
$

$ e_1,e_2,e_3$ のどれか一つは大きくなるので、 $ p_1^{e_1} p_2^{e_2} p_3^{e_3} (A)$ $ V_1,V_2,V_3$ の いずれかのみで 0 と異なる値をとる。これをもとに求める多項式を 計算するというわけである。

問題 4.1   次の行列のジョルダンの標準型を求めなさい。

$\displaystyle \begin{pmatrix}
1 & 1 & 1 \\
0 & 1 & 1 \\
0 & 0 & 1
\end{pmatrix}$


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平成15年11月8日