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代数学特論II 要約 No.5

今日のテーマ:

\fbox{行列のジョルダン標準型(まとめ)}

$ n$ 次正方行列 $ A \in M_n({\mathbb{C}})$ が与えられているとする。$ A$

$\displaystyle V={\mathbb{C}}^n ={\mathbb{C}}e_1+{\mathbb{C}}e_2 + {\mathbb{C}}e_3+\dots {\mathbb{C}}e_n
$

に作用し、 $ {\mathbb{C}}[X]$$ V$ への作用を

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$\displaystyle X.v=A v \quad (p(X).v=p(A).v)
$

で定義することができる。 和とスカラー倍に併せて、$ X$ による作用も考えると、 (単因子の考え方を用いて) $ V$ の生成元と 関係式を簡単化することができる。

定理 5.1 (定理4.1 を再掲)   $ V$ $ {\mathbb{C}}[X]$-加群として $ {\mathbb{C}}[X]/d(X){\mathbb{C}}[X]$ の形の加群の 直和と同型である。

とくに、巾零行列の表現空間は、 $ {\mathbb{C}}[X]/X^k {\mathbb{C}}[X]$ の形の加群の 直和に分解される。

単因子の計算法は、第3回に述べたが、その時には比較的単純な 行列しか例に挙げなかった。本当は事情はもう少し複雑である。 (ユークリッドの互除法が必要になる。) レポート問題を参照のこと。

$ {\mathbb{C}}[X]/d(X){\mathbb{C}}[X]$ の部分が気になるかも知れない。 この部分は(先週の関数の設計のところにも書いた) $ d(X)$ の 根による関数の分解をうまく用いる。

命題 5.2   $ d_1(X),d_2(X)$ は互いに素な $ {\mathbb{C}}$ 上の多項式であるとする。 このとき、 $ {\mathbb{C}}[X]$-加群としての同型

$\displaystyle {\mathbb{C}}[X]/d_1(X)d_2(X) \cong {\mathbb{C}}[X]/d_1(X) \oplus {\mathbb{C}}[X]/d_2(X)
$

が存在する。(但し右辺への $ {\mathbb{C}}[X]$ の作用は対角型

$\displaystyle f. (g,h)=(f.g, f.h)
$

で定まっているものとする。)

定理 5.3 (行列のジョルダンの標準型)   任意の行列 $ A \in M_n({\mathbb{C}})$ に対して、ある正則行列 $ P\in M_n({\mathbb{C}})$ があって、 $ B=P A P^{-1} $ は 次のような形の行列(ジョルダンブロックと呼ばれる)の 直和(対角に並んだ形)に等しくなる。

$\displaystyle J_s(a)=
\begin{pmatrix}
a& 1 & \\
& a & 1 \\
& & \ddots & \ddots \\
& & & a & 1 \\
& & & & a
\end{pmatrix}$

ここに、$ s$$ n$ 以下の整数、$ a$ は複素数($ A$ の固有値の一つ)である。 $ B$$ A$ のジョルダンの標準型という $ J_1(a)=a$ であることにも注意しておこう。$ A$ が対角化可能ならば、 $ A$ を対角化したものが $ A$ のジョルダンの標準型である。

ジョルダンブロックの形の行列は $ J_s(a)=a E + N_s$ ($ N_s$ は巾零行列)の 形をしていることにも、特に注意しておこう。 とくに、任意の多項式 $ p(X)$ にたいして、

$\displaystyle p(J_s(a))=\sum_{j=0}^s \frac{1}{j!}p^{(j)}(a)N_s^j
$

がなりたつ。とくに、$ p(J_s(a)) $$ p$$ a$ での$ s$ 階までの微分の値 により完全に決まる。 $ A$ のほうで言えば、$ A$ の固有値全体の集合を $ S$ とおけば、 $ p(A)$$ p$$ S$ での(多く見積もっても$ n$ 階までの)各階の導関数の値 によって完全に決まってしまう。

これは行列を $ \exp(X)$$ \sin(X)$ などの整関数 (全複素平面で正則な関数)や もっと一般に$ A$ の固有値の近傍で正則な関数に代入するときのヒントになる。

問題 5.1   $ f=X^3-8X^2+21X-18$, $ g=X^2-2X$ のとき、

$\displaystyle B=
\begin{pmatrix}
f & 0 \\
g & 0
\end{pmatrix}$

にたいして命題 3.1 を満たす $ P,Q$ および $ PBQ$ を求めなさい。



平成15年11月4日