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代数学特論II 要約 No.10

今日のテーマ:

\fbox{形式的べき級数環とその上の微分作用素}

先週は、「十分大きな関数空間」 $ \mathcal F$ を考えると言ったが、 これでは大きすぎるということもあるし、もっと具体的な形が知りたいこともある。 そこで、次のような空間を用意しよう。

$\displaystyle {\mathbb{C}}[[x]]=\{
\sum_{i=0}^\infty a_i x^i ; a_i \in {\mathbb{C}}
\}
$

補題 10.1   $ {\mathbb{C}}[[x]]$ は環をなす。(この環を形式的べき級数環と呼ぶ。)

但し、この講義では専ら $ {\mathbb{C}}[[x]]$ $ {\mathbb{C}}$-ベクトル空間としての 構造に注目し、積に着目することは少ない。

さらに、 $ {\mathbb{C}}[[x]]$ 上には $ x$ 倍と $ \partial_x$ がともに作用している。 $ {\mathbb{C}}[[x]]$ の元は $ 1,x,x^2,x^3,\dots, x^n,\dots$ の無限和であり、 したがって $ \{1,x,x^2,x^3,\dots,x^n\dots \}$ $ {\mathbb{C}}[[x]]$ の 「基底」に近い扱いをすることができる。(正確には、「基底」という場合には どんな元も有限和で書けなければならないので、ここで言うのは「位相ベクトル空間 としての基底」と呼ばれるものである。)

補題 10.2   $ x$$ m_x$、および微分 $ \partial_x$ は 次のような(無限)行列で表現できる。

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$\displaystyle \begin{pmatrix}
0 & & & & \\
1 & 0 & ...
...& \\
& & 0 & 3& & \\
& & & 0& 4& \\
& & & & \ddots & \ddots\\
\end{pmatrix}$

線型常微分方程式を解くとは、 この二つの行列やそれらを組み合わせてできる行列の 核の性質を調べていることだともいえる。 これら二つの行列は可換でないことにも注意しておこう。

補題 10.3   $ m_x$, $ \partial_x$ には次のような関係式がある。

$\displaystyle \partial_x m_x -m_x \partial_x =1
$

形式的べき級数環の元の範囲で微分方程式を求めるには、係数を イモヅル式に求めていくのが有効である場合が多い。 例えば、 $ \partial_x f -f=0$ なる $ f \in {\mathbb{C}}[[x]]$ を求めるには、 $ f=\sum_i a_i x^i$ と書いて、

$\displaystyle a_{i+i}=\frac{a_i}{i+1}
$

なる漸化式に持ち込むのである。

問題 10.1   $ (1-m_x)\partial_x$ を表現する行列を書き、

$\displaystyle (1-m_x)\partial_x f=1
$

を満たす $ f \in {\mathbb{C}}[[x]]$ を求めよ。

問題 10.2   $ n\times n$-行列 $ A,B$ で、

$\displaystyle BA -AB=1
$

を満たすものは存在しないことを示しなさい。



平成15年12月8日