next up previous
: この文書について...

代数学特論II 要約 No.11

今日のテーマ:

\fbox{環と加群の復習・加群の準同型}

代数学 II で、次のような議論を展開した。

(あ) 複素数を成分にもつような $ n\times n$-行列 $ A$ が与えられたとき、 $ V={\mathbb{C}}^n$ への不定元 $ X$ の作用を

$\displaystyle X.v=A v
$

で定めることができる。

他方、微分方程式を扱うときには次のような話が出てくる。

(い) $ \mathcal F= C^{\infty}($$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ )$ ないし $ {\mathbb{C}}[[x]]$ 上に、 $ m_x ,\partial_x$ の作用を定めることができる。

(あ)の話では $ X$ の作用のみならず、 $ X^2,X^3,\dots$ およびその和(複素係数の 線型結合)、すなわち $ X$ の多項式の作用を考えるのがよいのであった。 多項式一つ一つも大事であるけれども、それらを全部残らずまとめて 箱に入れたもの(集合)を考えるのが更に有効である。 これが多項式環 $ {\mathbb{C}}[X]$ で、 これは一種の「道具箱」を考えているようなものである。

同様にして、 $ m_x ,\partial_x$ で生成される環 $ \mathcal D$ を準備しておいて、 $ C^\infty($$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ )$ ないし $ {\mathbb{C}}[[X]]$ $ \mathcal D$-加群とみなす。これにより(線型)微分方程式を 環加群の枠組で考えることができるようになる。

定義 11.1 (復習)   $ R$ (正確には、 $ (R,+,\times)$ )が環(単位元をもつ結合環)であるとは、 次のような条件が満たされるときに言う。
  1. $ R$ は加減乗算について閉じている。
  2. $ (R,+)$ は加法群である。
  3. 乗法は結合律をみたし、かつ単位元 $ 1$ をもつ。
  4. 加法と乗法の間に分配律が成り立つ。

定義 11.2 (復習)   $ R$ は環であるとする。$ M$$ R$-加群であるとは、 つぎの性質を満たすときに言う。
  1. $ R$ の各元 $ r$ と、$ M$ の各元 $ m$ とにたいして、 $ r$$ m$ の作用 $ r.m \in M$ が定義されている。
  2. $ (M,+)$ は加法群である。
  3. $ (r_1 r_2). m =r_1. (r_2. m)$ , $ 1.m=m$          ( % latex2html id marker 953
$ r_1,r_2\in R, \quad m\in M$)
  4. $ (r_1+r_2).m=r_1.m+r_2.m$, $ r.(m_1+m_2)=r.m_1 +r.m_2$ ( % latex2html id marker 959
$ r_1,r_2\in R, \quad m, m_1,m_2\in M$)

定義 11.3   $ R$-加群 $ M,N$ があったとする。$ M$ から $ N$ への写像 $ \varphi$$ R$-準同型であるとは、$ \varphi$ が次の条件を満たすときに言う。
  1. $ \varphi$ は加法を保つ。すなわち、 $ \varphi(m_1+m_2)=\varphi(m_1)+\varphi(m_2)$ が全ての $ m_1,m_2\in M$ に 対して成り立つ。
  2. $ \varphi$$ R$ の作用を保つ。すなわち、 $ \varphi(r. m)=r.\varphi(m)$ がすべての $ r\in R , m \in M$ に対して 成り立つ。

$ R$-準同型の定義は、線型写像の定義と瓜二つであることに注意しよう。 実際、$ R$ が可換体であるときには、上の定義は線型写像の定義 そのものである。 線型写像の場合と同様に、その核と像を定義することができる。 ただし、$ R$ が体でない場合、特に非可換環の場合には、$ R$-準同型は 線型写像とはかなりおもむきが異なる。例をいくつか挙げよう。

例 11.1   $ \varphi:\mathcal D \to {\mathbb{C}}[[x]]$ $ \varphi(P)=P.1$ で定めると、$ \varphi$ $ \mathcal D$-準同型である。 $ \varphi$ の核 は $ \mathcal D \partial$ であり、 像は $ {\mathbb{C}}[x]$ である。

例 11.2   $ \varphi:\mathcal D \to {\mathbb{C}}[[x]]$ $ \varphi(P)=P.x$ で定めると、$ \varphi$ $ \mathcal D$-準同型である。 $ \varphi$ の核 は $ \mathcal D \partial^2+\mathcal D (x\partial -1)$ で あり、 像は $ {\mathbb{C}}[x]$ である。

例 11.3   $ \varphi:\mathcal D \to {\mathbb{C}}[[x]]$ $ \varphi(P)=P.\exp(x)$ で定めると、$ \varphi$ $ \mathcal D$-準同型である。 $ \varphi$ の核 は $ \mathcal D (\partial -1)$ で あり、 像は $ {\mathbb{C}}[x]\exp(x)$ である。

問題 11.1   $ \varphi:\mathcal D \to {\mathbb{C}}[[x]]$ $ \varphi(P)=P.\sin(x)$ で定めるとき、$ \varphi$ の核と像を求めよ。



平成15年12月16日