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代数学特論II 要約 No.12

今日のテーマ:

\fbox{生成元と関係式}

$ R$ 上の加群 $ M$ が、 $ x_1,x_2,\dots,x_n$ で生成されている (言い換えると、 $ x_1,x_2,\dots,x_n$$ M$ の生成元である)とは、 $ x_1,\dots,x_n$ を含むような $ M$ の部分 $ R$-加群が $ M$ 自身であるときに いう。 生成元

補題 12.1   環 $ R$ 上の加群 $ M$ があって、 $ x_1,x_2,\dots,x_n \in M$ が与えられているとき、
  1. $ R^n$ から $ M$ への $ R$-準同形写像 $ \phi$

    $\displaystyle \phi(r_1,r_2,\dots,r_n)= r_1.x_1+r_2.x_2+\dots+r_n.x_n
$

    によって定まる。
  2. $ M$ $ x_1,x_2,\dots,x_n$ で生成されるための必要十分条件は、 上の $ \phi$ が全射であることである。

例 12.1   $ {\mathbb{C}}^n$ $ {\mathbb{C}}$-加群であって、基本ベクトル $ e_1,e_2,\dots,e_n$ で生成されている。 もちろん、生成元の取り方は他にもいろいろある。

例 12.2   $ n\times n$ 行列 $ A$ が与えられたとき、 $ V={\mathbb{C}}^n$ には $ {\mathbb{C}}[X]$-加群の構造が

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$\displaystyle X.v=A v \qquad (v\in V)
$

から定まったのであった。$ V$ $ {\mathbb{C}}[X]$ 上でももちろん $ e_1,e_2,\dots,e_n$ で生成されているが、もっとよい生成元を探すことが $ A$ の「標準型」を得る第一歩であった。

定義 12.1   上の補題の状況で、 $ N=\operatorname{Ker}(\phi)$$ R^n$$ R$-部分加群である。 この $ N$ のことを $ x_1,x_2,\dots,x_n$ の 関係式のなす加群と呼ぶ。

例 12.3   $ V={\mathbb{C}}^n$ $ {\mathbb{C}}$-加群とみよう。$ V$ の元をいくつかとって $ v_1,v_2,\dots,v_m$ とすると、これらは一般には線型独立とは 限らない。

$\displaystyle c_1 v_1+c_2 v_2 +\dots +c_m v_m =0
$

なる $ (c_1,c_2,\dots,c_m)$ を集めた集合がこの場合の「関係式のなす加群」である。

例 12.4   例 12.2のように、 $ n$ 次の正方行列 $ A$ を固定して $ V={\mathbb{C}}^n$ $ {\mathbb{C}}[X]$-加群とみよう。 $ e_1,e_2,\dots e_n$ の間には $ {\mathbb{C}}[X]$ 上自明でない関係式がたくさんある。 それらを実際調べ、スミスの標準型を経由して $ A$ のジョルダンの標準型を 得ることができるのであった。

$ \mathcal D$-加群の場合には、関係式の問題は、「 $ f_1,f_2,\dots,f_n$ は どのような微分方程式(系)を満たすか」という問題とみることができる。 レポート問題を参照のこと。

定義 12.2   ある環 $ R$ 上の加群 $ M_1,M_2,M_3$ および加群の準同型 $ \psi_1: M_1\to M_2$ $ \psi_2: M_2\to M_3$ が与えられているとき、

$\displaystyle M_1\overset{\psi_1}{\to} M_2 \overset{\psi_2}{\to} M_3
$

が完全系列(exact sequence)であるとは、 $ \operatorname{Image}\psi_1=\operatorname{Ker}\psi_2$ が成り立つときにいう。

問題 12.1   $ \sin(x), \cos(x)\in {\mathbb{C}}[[x]]$ (原点でのテイラー展開を考えて)の $ \mathcal D$- 加群としての関係式の加群を求めよ。



平成16年1月22日