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日本語技法 No.4

$ \forall$$ \exists$

定義 4.1   変数 $ x$ を含むような命題 $ P$ にたいして、
  1. $ \forall x (P(x))$ は 「どのような $ x$ にたいしても、$ P(x)$ が成り立つ」 という意味である。
  2. $ \exists x (P(x))$ は 「少なくとも一つの $ x$ にたいして、$ P(x)$ が成り立つ」 という意味である。

原理的には、$ \forall$ , $ \exists$ および前回の論理記号と、 集合論の幾つかの記号を組み合わせることにより、数学の すべての言葉を記号列に翻訳できる。

例えばつぎの文は、「数学的帰納法」を表現したものである。

$\displaystyle \forall S(0\in S$ and $\displaystyle (\forall n\in\mathbb{N}(n\in S\implies (n+1)\in S))
\implies \mathbb{N}\subset S)
$

また、つぎの文章は、「 $ (X,\mathcal U)$ は位相空間である」 ということ(の定義)を述べたものである。

  1. $ \mathcal U \subset 2^X. $
  2. $ (\emptyset \in \mathcal U )$    and $ (X\in \mathcal U).$
  3. $ \forall U( \forall V(U,V\in \mathcal U \implies U\cap V \in \mathcal U)). $
  4. $ \forall \mathcal S (\mathcal S\subset \mathcal U
\implies \bigcap_{ U\in \mathcal S } U\in \mathcal U).
$

数学における論理は、 これらの記号列に関する「単純な計算」である。 つまり、「論理を追う」とは、これらの単純な計算を 間違いなく素早く行なうことである。それは、 かけ算の九九と同じように、 練習をすればほとんど誰でもできる。 ただし、つぎのような練習が必要である。

  1. 計算法を覚えること。
  2. 時おり計算の意味を考えること。
  3. 発展問題について解いてみること。

さしあたって今回は、つぎのことに注意しよう。

登場人物($ x$$ y$ などの変数)の出てくる順番が 大事である。

例えば、 $ J=\{$グー、チョキ、パー$ \}$ , にたいして、 $ x\succ y$ を、「$ x$$ y$ より強い」というふうに定義すると。

$\displaystyle \forall x\in J (\exists y\in J ( y \succ x))
$

は真の命題だが、

$\displaystyle \exists y\in J (\forall x\in J( y \succ x))
$

は偽の命題である。

問題 4.1   変数 $ x,y $ についての命題 $ P(x,y)$ で、

$\displaystyle \forall x \exists y (P( x , y))
$

は真の命題だが、

$\displaystyle \exists y \forall x( P(x, y))
$

は偽の命題である ようなものを挙げ、どうしてそうなのか解説を書きなさい。

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(補遺)

$\displaystyle \forall x\in J (P(x))
$

はきちんと書くと

$\displaystyle \forall x (x\in J \implies P(x))
$

という意味、

$\displaystyle \exists y\in J (P(y))
$

はきちんと書くと

$\displaystyle \exists y (y\in J$    and $\displaystyle P(y))
$

という意味の省略形である。



2006-10-26