「花は桜木、人は武士」などという言葉があるけれど、 数学者にとって数といえば複素数、関数といえば複素数値関数である。 少なくとも実数値関数の範囲では不便で、 フーリエ変換のような基本的な道具は 複素数値関数の範囲で初めてキレイに扱える。
この講義では実数の定義と諸性質については既知とする。
実数体上の線形代数の初歩も仮定しよう。
実数の全体の集合(実数直線)を
と書く。
複素数の定義にはいろいろな方法がある。 現代数学では(と言ってもたっぷり100年以上前から) 数それ自身にしても、その和や積にしても「自然に与えられた」とは 解釈しない。人間が自分たちで決めるのだ。 ただし、一回決めたらそれは守らなければならない。 日常生活の、時刻あわせの例などを考えてみるとよい。
つぎのようなことをやりたいのだが:
この定義は明解ではない。(ただし、代数学IBで環の理論を勉強した後ならば 正当化できる。)
初級の段階で明解な定義をするためには、次のような方法をとることもある。
この講義ではこの定義を採用しよう。 この定義では複素数の和、積はまだ与えられていない。 現代数学では(と言ってもたっぷり100年以上前から) 数それ自身にしても、その和や積にしても「自然に与えられた」とは 解釈しない。人間が自分たちで決めるのだ。 ただし、一回決めたらそれは守らなければならない。 日常生活の、時刻あわせの例などを考えてみるとよい。
本来、数の和や積を勝手に決めたからと言ってそれがよい計算規則を 満たすとは限らない。ところがこの講義での定義は行列の演算を 流用しているので、ある程度の計算規則をみたすことが自動的に保証される。 次の補題にまとめておこう。
がなりたつ。
「任意の実行列
に対して、
」
補題1.1, 補題 1.2 と命題1.1 をまとめて、複素数の全体
は体(たい)をなすという。
そこで、
のことを複素数体と呼ぶ。
と書くことができる。
数学は組み立てていくモノであるから、どこが出発点で、どのように作っていくかを 意識することが大変重要である。