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微分積分学概論AI要約 No.2

\fbox{数列と収束の定義}

$ \bullet $ 定義とは、 言葉の使い方のとりきめのことである。 数学では、どのような言葉も、そのような取り決めなしで使われることはない。 (ただし、「整数」「有理数」、「和」、「積」などの言葉をきちんと定義するのは 手間がかかる。 それらについて詳細に定義するのは この講義では控える。 (端的に言えば、整数は帰納法を援用して定義し、 有理数は整数の「商」 $ m/n$ に適当な「等しいかどうかの判定規則」と 定義する。) それらについて詳細に定義するのは この講義では控える。 実数は有理数の極限として 定義するのだが、今日はその「極限」の話題である。)

$ \bullet $ $ \forall$$ \exists$ とはなにか。

$\displaystyle \forall x ....
$

は、「どんな $ x$ に対しても、 $ ....$ がなりたつ」という意味。

$\displaystyle \exists x ....
$

は、「なにかある一つの $ x$ に対しては、 $ ....$ がなりたつ」という意味で用いる。

正の整数の全体のことをこの講義では $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0}$ と書く。 数列とは、数学的には次のように定義できる。

定義 2.1   実数列 $ \{a_n\}_{n=1} ^\infty$ とは、 $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0}$ から $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ への写像 のことである。

数列が「収束する」ということの厳密な定義をしよう。 それには、絶対値を用いる。

定義 2.2  

\begin{displaymath}
% latex2html id marker 973\vert x\vert=
\sqrt{x^2}
=
\begi...
...x & \text{ if } x\geq 0\\
-x & \text{ if } x< 0\\
\end{cases}\end{displaymath}

(ただし平方根は0以上のほうを選ぶ。)

上の平方根を使う定義は次のように 高次元の空間にも容易に拡張できるという長所を持つ。

% latex2html id marker 975
$\displaystyle \vert\vert(x_1,x_2,\dots,x_n)\vert\vert=\sqrt{x_1^2+x_2^2+x_3^2+\dots + x_n^2}
$

次の三角不等式も実は高次元の場合にも成り立つ。

定理 2.3 (三角不等式)   任意の実数 $ x,y$ に対して、

% latex2html id marker 984
$\displaystyle \vert x+ y\vert \leq \vert x\vert+\vert y\vert
$

がなりたつ。

いよいよ収束性の定義を述べよう。

定義 2.4   実数列 $ \{a_n\}_{n=1} ^\infty$ が実数 $ c$収束するとは、

$\displaystyle \forall \epsilon>0 \exists N \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}_{>0} (n>N \implies \vert a_n -c\vert<\epsilon)
$

がなりたつときに言う。

この定義が使いこなせるようになれば、この講義の目標の 80% は 達せられたと言って良い。

例題 2.5   数列 $ \{a_n \}$

\begin{displaymath}
a_n=
\begin{cases}
1 & \text{$n$ が $10$ の倍数のとき}\\
0 & \text{その他のとき}\\
\end{cases}\end{displaymath}

で定義するとき、 $ \{a_n \}$ は何かある値に収束するだろうか。 上の定義に基づいて理由を述べて答えなさい。

解答   収束しない。

(証明) 背理法で、$ \{a_n \}$ がある数 $ c$ に収束したとする。 収束の定義の $ \epsilon$ として $ \frac{1}{2}$ を採用しよう。 ある $ N_0$ が存在して、

$\displaystyle n>N_0$   ならばいつでも$\displaystyle \vert a_n-c\vert <\frac{1}{2}$ (※)

が成り立つはずである。そこで
(Small sample i).
上の $ n$ として $ N_0$ より大なる $ 10$ の倍数、たとえば、$ n=10 N_0 $ をとると、

$\displaystyle \vert 1-c\vert<\frac{1}{2}
$

がわかり、
(Small sample ii).
上の $ n$ として $ N_0$ より大なる数で、 $ 10$ の倍数でないもの、たとえば、 $ n=10 N_0+1 $ をとると、

$\displaystyle \vert-c\vert<\frac{1}{2}
$

がわかる。
上の (sample i,ii)をあわせると、

% latex2html id marker 1047
$\displaystyle 1=\vert 1-0\vert \leq \vert 1-c\vert+\vert c-0\vert<\frac{1}{2}+\frac{1}{2} =1
$

となって矛盾である。

よって、$ \{a_n \}$ はいかなる値にも収束しない。

例題 2.6   数列 $ \{a_n \}$

\begin{displaymath}
a_n=
\begin{cases}
1/n & \text{$n$ が $10$ の倍数のとき}\\
0 & \text{その他のとき}\\
\end{cases}\end{displaymath}

で定義するとき、 $ a_n$ は何かある値に収束するだろうか。 上の定義に基づいて理由を述べて答えなさい。

解答   $ \{a_n \}$ は 0 に収束する

(証明) 与えられた $ \epsilon\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ _{>0}$ にたいして、 $ N_0$ として、 $ 1/\epsilon$ より大きい整数を一つとっておく。 (そのようなもの(すなわち与えられた実数よりも大きな整数) が存在することは、「アルキメデスの原理」として 保証されているが、マアさしあたっては当り前だと思っても良い。)

この $ N_0$ が収束の定義の $ N$ の役割を果たすことを示そう。 実際、 $ n>N_0$ なる任意の $ n$ にたいして、

  1. $ n$$ 10$ の倍数なら、

    $\displaystyle \vert a_n-0\vert =\frac{1}{n}< \frac{1}{N_0}<\epsilon
$

  2. $ n$$ 10$ の倍数でないなら、

    $\displaystyle \vert a_n-0\vert =0<\epsilon
$

    となって、いずれの場合にせよ $ \vert a_n-0\vert<\epsilon$ が成り立つからである。

問題 2.1   数列 $ \{a_n \}$

\begin{displaymath}
a_n=
\begin{cases}
\frac{n-1}{n} & \text{$n$ が $10$ の倍数のとき}\\
0 & \text{その他のとき}\\
\end{cases}\end{displaymath}

で定義するとき、 $ \{a_n \}$ は何かある値に収束するだろうか。 上の定義に基づいて理由を述べて答えなさい。


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2009-04-17