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解析学 IA No.1要約

\fbox{今日のテーマ} 《多変数関数》

本講義では多変数の関数の扱い方、とくに極限と微分について講述する。 教科書には二変数関数を中心に書かれているが、考え方は変数が増えても同じである。

定義 1.1   一般に, 正の整数 $ n$ に対して、

   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ^n=\{(a_1,a_2,\dots,a_n); a_1,a_2,\dots, a_n\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle \}
$

を、(実) $ n$ 次元空間と呼ぶ。(2次元空間のことを平面、 3次元空間のことを単に空間と呼ぶ。) $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の元を(親しみをこめて) とよぶ。

高次元の空間について、非日常的だと思う人もいるかも知れないが、 そうではない。それらは変数の空間として大事な意味を持つ。 変数を多くもつ関数などというのはいくらでも出会うだろう。

定義 1.2   $ n$ を一つ固定する。このとき、
  1. 二点 $ P=(a_1,a_2,\dots, a_n), Q=(b_1,b_2,\dots,b_n)\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ にたいして、 その距離 % latex2html id marker 1243
$ d(P,Q)=\sqrt{\sum_{j=1}^n (a_j-b_j)^2 }
$ で定義する。
  2. $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の点 $ P=(a_1,a_2,\dots,a_n)$ を中心とする半径 $ r \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ _{>0}$開球 とは、

    $\displaystyle B_r(P)=\{ x \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ^n; d(x,a)<r\}
$

    のことをいう。$ n=1$ , $ n=2$ のときの開球のことをそれぞれ開区間, 開円板ともいう。

一般に、 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ 全体で関数が定義されていることは少なく、 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ X$ のみで定義される場合がほとんどである。 ところが極限、微分を論じる時には、考えている集合 $ X$ の 「ハジッコ」での話がややこしい場合がある。 そこで、ハジッコがない集合には特別な名前をつけて、それを 愛用するのである。

命題 1.1   $ d$ は距離の公理をみたす。すなわち、
  1. % latex2html id marker 1279
$ d(P,Q)\geq 0$ であり、 $ d(P,Q)=0  {\Leftrightarrow} P=Q$ .
  2. $ d(P,Q)=d(Q,P)$ .
  3. 任意の $ P,Q,R\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ にたいして、

    % latex2html id marker 1289
$\displaystyle d(P,Q)+d(Q,R)\geq d(P,R)
$

    が成り立つ。(三角不等式)

上の命題の証明には内積の概念を用いるのが便利である。

補題 1.1   $ u,v\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ にたいして、 それらの内積を $ \langle u,v \rangle=\sum_j u_j v_j$ で定義する。 このとき、
  1. $ \langle u,v \rangle$$ u,v$ について双線型である。
  2. $ \langle u,u\rangle$ は非負の実数である。その平方根を $ \vert\vert u\vert\vert$ と書く。
  3. % latex2html id marker 1310
$ \vert\langle u,v \rangle \vert \leq \vert\vert u\vert\vert\cdot \vert\vert v\vert\vert$ , % latex2html id marker 1312
$ \vert\vert u+v\vert\vert \leq \vert\vert u\vert\vert+ \vert\vert v\vert\vert$ .
  4. $ d(P,Q)=\vert\vert P-Q\vert\vert$ .

定義 1.3   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ U$開集合であるとは $ U$ の任意の点 $ P\in U $ にたいして、 ある正の実数 $ r$ が存在して、 $ B_r(x)\subset U$ であるときにいう。一行で書くと:

$\displaystyle U:$open$\displaystyle  {\Leftrightarrow}\
( \forall x \in U \exists r\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle _{>0} (B_r(x)\subset U)).
$

またもや $ \forall $$ \exists$ がでてきた。この講義でも大事になるので 使い方をマスターして頂きたい。とくに、$ x$$ r$ の登場の順番を気にして 欲しい。

定義 1.4   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の点列 $ \{P_j ; j=1,2,3,\dots\}$ が点 $ Q$収束するとは、

$\displaystyle \lim_{j\to 0}d(P,Q_j)=0
$

のときにいう。$ \{P_j\}$$ Q$ に収束するとき、

% latex2html id marker 1365
$\displaystyle P_j\to Q \quad (j\to \infty)
$

とか、 $ \lim_{j\to \infty} P_j=Q$ と書く。

つまり点列の極限を数(距離)の極限に帰着させているのである。 数の極限は $ \epsilon$ -$ N$ 法を用いて定義されることを思い出しておくこと。

補題 1.2   点列の収束は、その各成分が収束することと同値である。

定義 1.5   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ K$閉集合であるとは、「$ K$ に属する点からなる 点列 $ \{P_j\}_{j=1}^\infty$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の点 $ P$ に収束するなら、 必ず $ P$$ K$ に属する」ときに言う。

定義 1.6   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ D$領域 であるとは、 $ D$ 内の任意の二点 $ P,Q$$ D$ 内の折れ線で結べるときに言う。

定義 1.7   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ S$有界 であるとは、 ある $ P\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ と ある正の実数 $ R$ があって、 $ S$$ B_R(P)$ のなかにすっぽりと 部分集合として含まれてしまうときに言う。

補題 1.3   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ S$ に対して、次の二条件は同値である。
  1. $ S$ は閉集合である。
  2. $ S$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ での補集合 $ \complement S$ は開集合である。

例 1.1   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ において、
  1. $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ 自体は開集合であり、閉集合でもある。
  2. 開球は開集合であるが、閉集合ではない。
  3. $ P\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$$ r>0$ とにたいして、閉球

    $\displaystyle \overline{B_r}(P)=\{Q\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1475
$\displaystyle ^n; d(P,Q)\leq r\}
$

    は閉集合であるが、開集合ではない。

例 1.2  
  1. 半開区間 $ (0,1]$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の開集合でも、閉集合でもない。
  2. $ [0,1]\times (0,1)$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2$ の開集合でも、閉集合でもない。

下の例のように、「開集合」「閉集合」は 「どの集合のなかで考えるか」が大切である

例 1.3   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2$ の ``x軸" $ (\{(x,0); x\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ \})$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ と同一視する。このとき $ (0,1)$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の開集合であるが、 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2$ の開集合ではない。

定義 1.8   写像(関数) $ f:X\to Y$ が与えられているとき、 $ X$ のことを $ f$定義域(もしくは始集合), $ Y$ のことを $ f$終集合 $ f(X)$ のことを $ f$値域とよぶのであった。 $ X\times Y$ の 部分集合

$\displaystyle \Gamma_f=\{(x,f(x))\vert x\in X\}
$

のことを $ f$グラフとよぶ。

※レポート問題

(期限:次の講義の終了時まで。)

問題 1.1   平面 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2$ の部分集合 $ \{(0,0)\}$ (一点からなる集合)は 開集合ではないことを示しなさい。


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2009-04-06