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解析学 IA No.5要約

\fbox{今日のテーマ} 《合成関数の微分・連鎖律》

(全)微分を「一次近似」としてとらえると、 合成関数の微分は大変やさしい。

定理 5.1   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^l$ の開集合 $ U$ から $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^m$ への写像 $ f$ と、$ f(U)$ を部分集合として 含む開集合 $ V$ から $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ への写像 $ g$ が与えられていたとする。 このとき、もし $ f$ が点 $ a\in U$ で全微分可能で、 なおかつ $ g$ が点 $ b=f(a)$ で全微分可能ならば、 合成関数 $ g\circ f$$ a$ で全微分可能であって、

$\displaystyle D(g\circ f)_a= (D g)_{f(a)}\cdot (D f) _a
$

(``$ \cdot$ " は行列の積)が成り立つ。

証明. $ (D f)_a=L$ , $ (D g)_{b}=M$ と書くと、

  % latex2html id marker 1076
$\displaystyle f(a+v)=f(a)+L v + o(\vert\vert v\vert\vert)\quad (=b+L v +o(\vert\vert v\vert\vert))$    
  $\displaystyle g(b+w)=g(b)+M w + o(\vert\vert w\vert\vert).$    

このことから、

  $\displaystyle g(f(a+v))=g(b+ L v +o(\vert\vert v\vert\vert))$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle g(b)+ M\cdot (L v + o(\vert\vert v\vert\vert)) + o(\vert\vert L v + o(\vert\vert v\vert\vert)\vert\vert)$    
$\displaystyle =$ $\displaystyle g(f(a))+ M\cdot L v + o(\vert\vert v\vert\vert))$    

がわかる。 % latex2html id marker 1070
$ \qedsymbol$

全微分の行列成分は偏微分係数であったことを思い出すと、 次の系が得られる。

系 5.2 (``定理4.6, 定理4.7'')   上の定理の状況の下で、 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^l,$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^m,$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の座標系を それぞれ $ (x_1,x_2,\dots,x_l)$ , $ (y_1,y_2,\dots,y_m)$ , $ (z_1,z_2,\dots,z_n)$ として、$ f,g$ を成分で表示すると、

$\displaystyle \left.\frac{\partial (g\circ f)_i} {\partial x_k}\right \vert _{x...
... \vert _{y=f(b)}
\left. \frac{\partial f_ j} {\partial x_k}\right\vert _{x=a}
$

例 5.1  

  $\displaystyle f:$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ^2 \ni (u,v) \mapsto (u, u+v^3) \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ^2$    
  $\displaystyle g:$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ^2 \ni (x,y) \mapsto x^3 y \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$    

を考えると、

  $\displaystyle (Df)_{(a,b)}= \left . \begin{pmatrix}1 &1  0 & 3 v^2 \end{pmatrix} \right \vert _{(u,v)=(a,b)} = \begin{pmatrix}1 &0  1 & 3 b^2 \end{pmatrix}$    
  $\displaystyle (Dg)_{(x_0,y_0)}= \left . \begin{pmatrix}3 x^2 y & x^3 \end{pmatr...
...ight \vert _{(x,y)=(x_0,y_0)} =\begin{pmatrix}3 x_0^2 y_0 & x_0^3 \end{pmatrix}$    

とくに、

  $\displaystyle (Dg)_{f(a,b)}= =\begin{pmatrix}3 a^2 (a+b^3) & a^3 \end{pmatrix}$    

とくに、

他方で、

$\displaystyle (g\circ f)(u,v)=u^3 (u+v^3)
$

であるから、

$\displaystyle (D(g\circ f))_{(a,b)}=
\begin{pmatrix}
4 a^3 +3 a^3 b^3& 3 a^3 b^2
\end{pmatrix}$

であって、簡単な行列算により、この場合に定理が実際に正しいことを 確かめられる。

変数の数 $ l,m,n$ を変えて、上の系をいろいろ書き換えてみると良い。 ``連鎖律''の感じが掴めるだろう。連鎖律は、変数変換を考える際に特に重要になる。

定義 5.1   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^l$ の開集合 $ U$ から $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^m$ への写像 $ f$ の 偏微分係数

$\displaystyle \frac{\partial f}{ \partial x_j}\vert _{x=a}
$

$ a$ の関数とみたものを、$ f$$ x_j$ での 偏導関数とよぶ。

上の定義では、$ f$ としてはベクトル値を許して記述した。 下の定義でも $ f$ をベクトルのままで扱っても良いのであるが、 あえて成分で書いておくことにする。

定義 5.2   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^l$ の開集合 $ U$ から $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^m$ への写像 $ f$$ U$ において $ C^1$ -級であるとは, $ f$ の全ての成分の全ての偏導関数

\begin{equation*}
% latex2html id marker 1177\left\{
\frac{\partial f_i}{ \par...
...ligned}
&i=1,2,\dots,m\\
& j=1,2,\dots,l
\end{aligned}\right \}
\end{equation*}

が存在して、しかも $ a\in U$ について連続であるときにいう。

上の定義は、確かめやすいが、偏微分を用いているので 「偏った」感じである。

定理 5.3   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^l$ の開集合 $ U$ から $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^m$ への写像 $ f$ について、 次は同値である。
  1. $ f$ は上の定義の意味で $ C^1$ 級である。
  2. $ f$$ U$ の各点で微分可能で、 かつ全微分 $ Df\vert _{x=a}$$ a$ について($ U$ 上の $ M_{m,l}($$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ )$ -値関数として) 連続である。

証明には次の補題を(連続して)用いると良い。

補題 5.1   定理の仮定の下で、 $ x\in U$ かつ $ B_r(x)\subset U$ とする。 $ f$$ U$$ C^1$ 級ならば、

% latex2html id marker 1229
$\displaystyle f(x+h_1 e_1 )=f(x)+h_1
\int_0^1 \frac{\partial f(x+ t_1 h_1 e_1)}{\partial x_1} d t_1
\qquad ( h_1\in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle , \vert h_1\vert<r )
$

がなりたつ。ここに、 $ e_1=(1,0,0,\dots,0)$ は基本ベクトルである。 (同様の表示が他の軸方向についても成り立つ。)

オット、次の定理も必要になる。証明は位相空間論の講義を参照のこと

定理 5.4   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の コンパクト集合 $ K$ 上の $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^m$ -値連続関数 $ f$ は一様連続である。 すなわち、

$\displaystyle \forall \epsilon >0 \exists \delta >0
\forall x,\forall y \in K
(d(x,y) <\delta \implies d(f(x),f(y))<\epsilon)
$

※レポート問題

(期限:次の講義の終了時まで。)

問題 5.1   $ f(x,y,z)=z\sin(x y) $$ x,y,z$ に関する偏導関数をそれぞれ求めよ。


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2009-05-27