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代数学II要約 No.7

第7回目の主題 : \fbox{PID 上の有限生成加群}

定義 7.1   環 $ A$ 上の加群 $ M$ の元 $ m_1,m_2,\dots, m_k$ に対して、 $ A$ -準同型

$\displaystyle \varphi: A^{\oplus k} \ni
\begin{pmatrix}
a_1 \\
a_2 \\
\vdots \\
a_k
\end{pmatrix}\mapsto
\sum_{j=1}^k {a_j. m_j}
$

の核 $ \operatorname{Ker}(\varphi) $ の元のことを $ m_1,m_2,\dots, m_k$関係式と呼び、 その全体のなす加群 $ \operatorname{Ker}(\varphi) $ のことを $ m_1,m_2,\dots, m_k$関係式のなす加群と呼ぶ。

以下では、次のような変換を考える。

変換1.
$ \{m_1,m_2,m_3,\dots,m_k\}$ の順序を入れ換える。
変換2.
$ \{m_1,m_2,m_3,\dots,m_k\}$ の代わりに それを $ \begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}\in {\operatorname{GL}}_2(A)
$ で「ひねった」

$\displaystyle \{a. m_1+b.m_2,c.m_1+ d.m_2,m_3,\dots,m_k\}
$

を考える。
変換3.
$ \{m_1,m_2,m_3,\dots,m_k\}$ の代わりに $ m_1$

$\displaystyle m_1'= m_1+ a_2 m_2+ a_3 m_3 + \dots m_k m_k
$

に置き換えたもの $ \{m_1', m_2,m_3,\dots, m_k\}$ を考える。

(変換3)は(変換1), (変換2)を有限回組み合わせて得られることが わかるので 以下の議論で必須ではない。

補題 7.2 (変換1)   ,(変換2),(変換3)の形の変換は(同じ形の)逆変換をもつ。 とくに、 $ m_1,m_2,\dots, m_k$$ M$ を生成するならば、それに (変換1),(変換2),(変換3) を有限回繰り返して得られた組み合わせ $ m_1',m_2',\dots, m_k'$$ M$ を生成する。

補題 7.3   可換 PID $ A$ と、その上の加群 $ M$ が与えられていて、 $ M$$ A$ $ m_1,m_2,\dots, m_k$ で生成されているとする。 $ m_1,m_2,\dots, m_k$ を(変換1), (変換2), (変換3) を 有限回繰り返して得られる $ M$ の生成系 の全体を $ \mathcal S$ とおく。このとき、
  1. $ \underline{m'}=\{m_j'\}\in \mathcal S$ にたいして、

    % latex2html id marker 1060
$\displaystyle I_{\underline{m'}}=
\{c_1\in A; \sum_j c_j m_k \in M\qquad (\exists c_2,c_3,\dots c_k \in A) \}
$

    とおくと、 $ I_{\underline{m'}}$$ A$ のイデアルである。
  2. % latex2html id marker 1066
$ \{I_{\underline{m'}};
\quad m' \in \mathcal S\}$ のなかで(包含順序に関して) 極大なものが存在する。 その一つを以下 $ J_{\underline{v}}$ と書こう。
  3. $ J_{\underline v}=A c$ となる $ c$ が存在する。 $ c=0$ なら $ M$ は自由加群である。 以下、% latex2html id marker 1078
$ c\neq 0$ とする。
  4. % latex2html id marker 1080
$\displaystyle a_1 v_1
+a_2 v_2
\dots +
a_k v_k=0 \qquad (a_1=c)
$

    なる関係式が存在する。
  5. 上の $ a_1,a_2,a_3,\dots, a_k$$ c$ で割り切れる。 (すなわち、$ A c$ の元である。)
  6. $ \underline u\in \mathcal S$ で、 $ c u_1=0$ なるものが存在する。
  7. 上のような $ \underline u$ の間に成り立つ任意の関係式

    $\displaystyle \sum_j c_j u_j=0
$

    にたいして、各 $ c_j $$ c$ で割り切れる。
  8. 上の $ \underline u$ にたいして、 $ M$$ A u_1$ $ A u_2+\dots+ A u_k$ の直和と同型である。

上の補題のような $ M$ $ m_1,m_2,\dots m_k$ が与えられたとき、 $ c$ に当たるものの候補を見付け、 もしそれが「本物」ではない場合には証明にあるような操作を用いて 生成元の変換を逐次行うことにより、$ u$ を求めるアルゴリズムを 作成することができる。同様にして次の定理の $ w$ を得るアルゴリズムも 得られる。

定理 7.4   可換 PID $ A$ 上の有限生成加群 $ M$ が与えられているとする。 このとき、$ M$ の生成系 $ \underline{m}=\{m_1,m_2,\dots, m_k\}$ にたいして、 $ \underline m$ を(変換1),(変換2),(変換3)を有限回繰り返すことにより、 $ M$ の新しい生成系 $ \underline w$ であって、

$\displaystyle M \cong Aw_1 \oplus A w_2 \oplus \dots A w_k
$

となるものが存在する。

定義 7.5   一つの元で生成される加群を巡回加群と呼ぶ。

補題 7.6   任意の環 $ A$ に対して、次のことが言える。
  1. 任意の $ A$ の左イデアル $ J$ にたいして、 $ A/J$ は巡回加群である。
  2. 任意の巡回加群は(1)で述べたようなものと同型である。

命題 7.7 (定理の言い換え)   可換 PID $ A$ 上の任意の有限生成加群 $ M$ は巡回 $ A$ 加群の直和に同型である。 ゆえに、ある $ c_1,c_2,\dots, c_k \in A^k$

$\displaystyle M\cong A/Ac_1 \oplus A/A c_2 \oplus \dots \oplus A/A c_k
$

なる同型が存在する。

(ただの)加群は $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ -加群のことと同じであって、 $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$$ PID$ であることから、 つぎの(大変有用かつ重要な)系が成り立つ。

系 7.8 (有限生成アーベル群の基本定理)   任意の有限生成アーベル群は巡回群の有限個の直和である。

問題 7.1   $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ -加群 $ M$ が2つの元 $ m_1,m_2$ で生成されていて、次の関係式を満たすとする。

  $\displaystyle 30 m_1 + 48 m_2=0$    
  $\displaystyle 88 m_1 + 100 m_2=0$    

これ以外に特段の関係式がないとするとき、$ m_1,m_2$ に(変換1),(変換2),(変換3) を有限回施すことにより、新しい生成元 $ w_1,w_2$ を得て、 $ M$ を巡回加群の直和として表現せよ。


復習:

命題 7.9   可換 PID $ A$ の元 $ a,b$ に対して、イデアル $ A a + A b $ は ある単項イデアル $ A d$ と等しい。このとき、ある $ a',b',x,y$ が存在して、 次の二式が成り立つ。
  1. $ a= a' d $ ,    $ b=b' d$ .
  2. $ a' x + b' y =1$ .
とくに、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
a' & b' \\
-y & x
\end{pmatrix}$

$ \operatorname{SL}_2(A)(\subset {\operatorname{GL}}_2(A))$ の元である。

命題 7.10   可換 PID $ A$ のイデアルの増加列

$\displaystyle I_1 \subset I_2 \subset I_3 \subset I_4 \subset \dots
$

は必ず有限で止まる。すなわち、ある $ N$ があって、

$\displaystyle I_N=I_{N+1}=I_{N+2}=\dots
$

が成り立つ。


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2010-06-01