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代数学II要約 No.10

第10回目の主題 : \fbox{加群の生成元と関係式}

生成元と関係式についての扱いについてもう少し補足しておこう。

$ A$ が与えられているとする。 $ A$ -加群 $ M$ $ m_1,m_2,\dots, m_k$ で生成されていて、それらが 関係式

% latex2html id marker 1102
$\displaystyle \sum_{j=1}^k r_{ij} m_j=0 \qquad (i=1,2,\dots,l)$ (関係R)

をみたすという状況を考えよう。

構成 10.1   つぎのようにして、生成元の間の関係式 (関係 R) をみたすような加群 $ M^{(R)}$ とその生成元 $ \{m_j^{(R)}\}_{j=1}^k$ が見つかる。
  1. $ F=A^{\oplus k}$ を考えよう。 $ F$$ k$ 個の元(「基本ベクトル」) $ e_1,e_2,\dots, e_k$ で生成される。
  2. $ v_i=\sum_{j=1}^k r_{i j} e_j$ とおき、 $ F$ の部分加群 $ N$ で、 $ \{v_i\}_{i=1}^l$ で生成されるものを 考えよう。 $ N$$ v_j$$ A$ -係数の線形結合の全体であるといってもよい。
  3. 剰余加群 $ M^{(R)}=F/N$ を考えよう。 これは $ F$ の元を「差が $ N$ に入るかどうか」 でクラス分けしたクラスの全体である。
  4. $ M^{(R)}=F/N$ での $ e_j $ のクラスを $ m_j^{(R)}$ とかくと、$ M$ $ \{m_j^{(R)}\}$ で生成され、 それらは関係式

    % latex2html id marker 1153
$\displaystyle \sum_{j} r_{ij} m_j^{(R)}=0 \qquad (i=1,2,\dots,l)$ (関係 $ R^{(R)}$ )

    ((関係 R) の $ m_j$$ m_j^{(R)}$ に変えたもの)をみたす。

  5. 作り方から明らかなように、 関係 $ R^{(R)}$ $ \{m_j^{(R)}\}$基本関係式である。 すなわち、[定義 7.1 で $ \phi$ と呼ばれているものにあたる] $ A$ -準同型

    $\displaystyle A^{\oplus k} \ni
\begin{pmatrix}
a_1\\
a_2 \\
\vdots \\
a_k
\end{pmatrix}\mapsto
\sum _j a_j m_j^{(R)}
\in M^{(R)}
$

    の核は $ \{v_i\}_{i=1}^l$ で生成される。

$ M^{(R)}$ は、次の意味で普遍的である。

命題 10.2  

$ A$ -加群 $ M$$ k$ 個の元 $ m_1,\dots, m_k$ で生成されて、それらは関係式 (R) をみたしたとする。 $ M^{(R)}, \{m_j^{(R)}\}$ を上記のように構成したとき、 $ A$ -加群の準同型

$\displaystyle \varphi: M^{(R)} \to M
$

% latex2html id marker 1192
$ \varphi(m_j^{(R)})=m_j \qquad(j=1,2,\dots, k)$ を満たすものがただひとつ 存在する。この $ \varphi$ は必然的に全射である。

普遍性は代数の問題を考える上でキーになることが多い。 例えば、上の命題ような普遍性を持つ $ (M^{(R)}, \{ m_j^{(R)}\})$ は (適当な意味の)同型を除いて一意であることが証明できる。

例 10.3   $ A={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ , $ k=2,m=2$ として

% latex2html id marker 1207
$\displaystyle 2 m_1 + 3 m_2 =0,\quad 6 m_1 +6 m_2=0$ (Rexample)

なる関係式を満たす加群 $ M$ を考えたい。$ M$ としてはたとえば、0 -加群 ( $ m_1=0, m_2=0$ )などという自明なものもあるし、そうでなくても % latex2html id marker 1216
$ m_1=0,\quad 3 m_2=0$ なる条件を満たすもの ( $ M={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/3{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}, m_1=0, m_2=[1]_3$ ) も ある。一番「大きな」(普遍的な)ものは

$\displaystyle M^{(R)}={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}^{\oplus 2}/ ({\mbox{${\mathbb{Z}}$}}.(2 e_1 +3 e_2)+ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}.(6 e_1 +6 e_2)
$

として、 $ m_1^{(R)},m_2^{(R)}$ をそれぞれ $ e_1,e_2$ のクラスで決めたものである。 (この $ (M^{(R)},m_1^{(R)},m_2^{(R)})$ は今の場合には $ ({\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/2 {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}\oplus {\mbox{${\mathbb{Z}}$...
...b{Z}}$}},\begin{pmatrix}1\\ 0\end{pmatrix},
\begin{pmatrix}0\\ 1 \end{pmatrix})$ と同型である。)

PID 上の有限生成加群 $ M$ の構造は命題7.7のようによくわかっていて、 とくに $ M$ は必ず有限表示であった。$ M$ の部分加群 $ N$ が与えられたとき、 剰余加群 $ M/N$ に対して命題7.7 を用いることにより、次のことがわかる。

命題 10.4   可換 PID 上の有限生成加群 $ M$ の任意の部分加群 $ N$ は有限生成である。

上の命題は、 ネーター環上の任意の有限生成加群の任意の部分加群はまた有限生成である、 という性質の特別の場合である。

可換 PID 上の 有限生成加群の構造は、「単因子論」として知られる ものと表裏一体の関係にある。これは次の理由による: 命題 10.2 によると、 一般に、環 $ A$ の元を成分に持つ行列

$\displaystyle R=(r_{ij})
$

が与えられれば構成 10.1 で有限表示 $ A$ -加群 $ M^{(R)}$ が定まるのであった。 他方、 系6.2ですでに、 任意の有限表示 $ A$ -加群はこのような形に書けることがわかっている。 つまり、有限表示 $ A$ -加群を調べることは行列 $ R$ をよく調べることと 深く関係している。 $ A$ が可換 PID であるとき、$ M^{(R)}$ の生成元の取り換え (T1)-(T3) を 有限回繰り返せば、生成元の基本関係式が単項にできるのであった。 それらの操作は $ R$ に右から「基本行列」を有限個掛けて新たな行列 $ R'$ を 得ることに対応する。 関係式 $ R'$ 自体が「単項」になっているとは限らないが、適当な変換 ($ R'$ に左から基本行列を有限個掛けることに対応)により、新たな行列 $ R''$ で「単項」なものを用意できる。詳しくは本講義の教科書等を参考のこと。

問題 10.1   $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ -加群 $ F={\mbox{${\mathbb{Z}}$}}\oplus {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ に、クラス分け (``$ \sim$ '')を

% latex2html id marker 1288
$\displaystyle m_1 \sim m_2
\qquad {\Leftrightarro...
...
4
\end{pmatrix}+
{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}
\begin{pmatrix}
9 \\
8
\end{pmatrix}$

で定義し、$ m\in F$ のクラスを $ [ m]$ で表すことにする。このとき、
  1. % latex2html id marker 1294
$\displaystyle v_1=
\begin{pmatrix}
1 \\
1
\end{pmatrix}, \quad
v_2
=
\begin{pmatrix}
1 \\
5
\end{pmatrix}$

    とおくと、 $ [v_1]=[v_2]$ であることを示しなさい。
  2. 上の $ [v_1] $$ 0\in F$ のクラス $ [0]$ とは等しくないことを示しなさい。


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2010-06-17