next up previous
Next: About this document ...

    

代数学 IB No.13要約

\fbox{今日のテーマ} 《多項式環は素元分解環である》

定理 13.1   $ R$ が素元分解環ならば $ R[X]$ も素元分解環である。

上の定理の系として直ちにわかる次のことは大変基本的で、重要である。

系 13.2   素元分解環 $ R$ 上の $ n$ 変数多項式環 $ R[X_1,X_2,\dots, X_n]$ は また素元分解環である。

補題 13.1   整域 $ R$ が与えられているとき、集合

% latex2html id marker 928
$\displaystyle S_R=R\times (R\setminus\{0\})=\{(a,b); a\in R, b\in R, b\neq 0\}
$

に同値関係を

$\displaystyle (a,b)\sim (c,d) {\Leftrightarrow}a d =b c
$

で定義する。 $ (a,b)\in S_R$ のこの同値関係によるクラスを $ a/b$ と書く。 $ Q(R)=S_R/\sim$ に和、積を

$\displaystyle a/b+ c/d=(ad+bc)/bd
$

$\displaystyle a/b\cdot c/d=(ac)/(bd)
$

で定義すると、これらはうまく定義されて, $ Q(R)$ は体になる。

定義 13.1   整域 $ R$ にたいして上のように作られる環 $ Q(R)$$ R$商体と呼ぶ。

定理 13.1 の証明には、 $ Q(R)[X]$ の素因数分解を利用して $ R[X]$ の素因数分解をすることを考える。 そのために次の概念を用いよう。

定義 13.2   素元分解環 $ R$ 上の一変数多項式 $ f$原始的であるとは、 $ f$ の係数を全て集めたものの最大公約数が $ 1$ であるときにいう。

多項式の係数の「共通因数」をくくり出すことにより、次のことが言える。

補題 13.2   任意の $ f\in R[X]$

% latex2html id marker 979
$\displaystyle f=a f_1 \qquad (a \in R,$   $f_1&isin#in;R[X]$ は原始的$\displaystyle )
$

と書くことができる。$ a$ は同伴を除いて一意的である。

補題 13.3 (ガウス)   素元分解環 $ R$ が与えられているとし、$ K=Q(R)$ とおく。このとき
  1. $ R[X]$ の元 $ f,g$$ R$ の素元 $ p$ とにたいして、

    $\displaystyle fg\in p R[X] \ {\Leftrightarrow}\ \left(f \in p R[X] \text{ or }g \in p R[X]\right)
$

  2. $ R[X]$ の原始的な元の積は必ず原始的である。
  3. $ R[X]$ の原始的な元 $ f$ について、 次のことは同値である。
    1. $ f$$ R[X]$ の素元である。
    2. $ f$$ R[X]$ の既約元である。
    3. $ f$$ K[X]$ の既約元である。
    4. $ f$$ K[X]$ の素元である。

証明. (1) $ R[X]/pR[X]\cong (R/p)[X]$ であり(問題 13.2)、($ R/p$ は 整域だから、$ (R/p)[X]$ も整域。ゆえに $ p R[X]$$ R[X]$ の素イデアルである。

(2) は (1)からすぐに従う。

(3): (a) $ \implies$ (b) は補題10.3の (1) から従う。 $ K[X]$ はユークリッド整域であるから、一意分解環。ゆえに、 (c) $ {\Leftrightarrow}$ (d) である。

(b) $ \implies$ (c): $ f$$ R[X]$ の原始的既約元であるとする。 $ f$ がもし $ K[X]$ で既約でなければ、

$\displaystyle c_1 f=c_2 g_1h_1
$

( $ c_1,c_2\in R\setminus \{0\}$ , $ g_1,h_1\in R[X]$ は原始的かつ1次以上) なる $ c_1,c_2,g_1,h_1$ が存在することが分かる。 $ g_1 h_1$ は(2)により原始的であるから。$ c_1$$ c_2$ は同伴。 そのことから、

$\displaystyle f=u g_1 h _1 (\exists u \in R^\times)
$

がわかる。これは $ f$$ R[X]$ の既約元であることに反する。

(d)$ \implies$ (a): $ f$$ R[X]$ の原始的な元で、$ K[X]$ の素元であるとする。 $ gh \in f R[X]$ なる $ g,h \in R[X]$ があるとすると、$ K[X]$ のなかで 考えることにより

$\displaystyle g \in f K[X]$    or $\displaystyle h \in f K[X]
$

がわかる。どちらでもおなじことであるから $ g \in f K[X]$ としよう。 一般性を失うことなく、$ g$ は原始的であると仮定してよい。 $ g\in K[X]$ から

$\displaystyle b_0 g =b_1 f m
$

なる $ b_0,b_1\in R\setminus \{0\}$ と、 原始的な元 $ m\in R[X]$ の存在が分かる。 再び (2)のより、$ b_0$$ b_1$ とは同伴であることを知る。したがって、 $ g \in f R[X]$ . % latex2html id marker 1026
$ \qedsymbol$

問題 13.1   整域 $ R$ にたいして、$ Q(R)$ の和がうまく定義されることを実際に証明せよ。

問題 13.2   可換環 $ R$ が与えられているとする。このとき、任意の $ p \in R$ にたいして 環としての同型

$\displaystyle R[X]/p R[X] \cong (R/pR)[X]
$

が存在することを示しなさい。


next up previous
Next: About this document ...
2012-01-05