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代数学IB要約 No.14

UFD $ R$ を係数とする多項式の因数分解には、 $ R$ の商体 $ Q(R)$ での因数分解を考えれば十分であることが ガウスの補題により分かるのでした。

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今日のテーマ: \fbox{既約性の判定}

代数についてよく学びたい人のための注: 今回の議論は $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ とその商体 $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ に関してのべるが、 一般の UFD $ R$ とその商体 $ K=Q(R)$ に関しても同様なことが成り立つ。

次の命題はガウスの補題の系である。

命題 14.1   $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上の多項式 $ f(X) \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上で可約ならば、 $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上でも可約である。

命題 14.2   多項式 $ h\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ が多項式 $ f,g\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ の積の時、
  1. $ h$ の定数項は $ f$ の定数項と $ g$ の定数項の積である。
  2. $ h$ の最高次の係数は $ f$ の最高次の係数と $ g$ の最高次の係数との 積である。
とくに、モニックな $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ の多項式がもし可約ならばそれはモニックな因数を持つ。

系 14.3   $ n\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ が平方数でなければ、$ X^2-n$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$$ [X]$ の既約元である。 よって、このとき、% latex2html id marker 1021
$ \sqrt{n}$ は無理数である。

命題 14.4   $ K$ 上の 3次もしくは2次の多項式 $ f\in K[X]$ について、 $ f$$ K$ の中に根を持たなければ $ f$$ K$ 上既約である。

定理 14.5 (アイゼンシュタイン)   $ {\mbox{${\Bbb Z}$ }}$ を係数にもつモニックな多項式

$\displaystyle f(X)=X^k+a_{k-1}X^{k-1}+a_{k-2}X^{k-2}+\dots+a_0
$

が、ある素数 $ p$ に対して、次の二つの性質をもつとする。

  1. % latex2html id marker 1051
$ f(X)=X^k \quad\pmod{ p}$
  2. $ f(X)$ の定数項は $ p^2$ で割り切れない。
このとき、 $ f$ $ \mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上既約である。

次のこともよく用いる。

定理 14.6   任意の $ f\in k[X]$ と任意の定数 $ c\in k$ に対して、

$ f(X)$ が既約 $ {\Leftrightarrow}$ $ f(X+c)$ が既約.

定理 14.7   モニックな整係数多項式 $ f(X) \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ が与えられているとする。 ある素数 $ p$ に対して $ f$ $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/p{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 係数の多項式として既約なら、 $ f$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$$ [X]$ の元として既約で ある。

問題 14.1   $ X^2-6$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上既約であることを示しなさい。 (今回はもちろん % latex2html id marker 1103
$ \sqrt{6}$ が無理数であることを使ってはならない。)

問題 14.2   $ X^3-X-1$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上既約であることを示しなさい。


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2012-01-19