next up previous
Next: About this document ...

    

論理と集合要約 No.7

第7回目の主題 : \fbox{写像}

定義 7.1   集合 $ X$$ Y$ が与えられているとする。 $ X$ の各元 $ x$ に対して、$ Y$ の元 $ f(x)$ がひとつづつ与えられているとき、 $ X$ から $ Y$ への写像 $ f$ が与えられているという。 $ X$ のことを $ f$始集合$ Y$ のことを $ f$終集合という。

$ x$ がどの元がどの元に行くかという情報とともに、 $ X$$ Y$ を指定することが大変重要である。

この状況は次のように書くと便利である。

$\displaystyle f:\ $ $\displaystyle X$   $\displaystyle \to$   $\displaystyle \ Y$    
  $\displaystyle \mathrel{\rotatebox[origin=c]{90}{$\in$}}$       $\displaystyle \mathrel{\rotatebox[origin=c]{90}{$\in$}}$    
  $\displaystyle x$   $\displaystyle \mapsto$   $\displaystyle f(x)$    

但し、行数がかかるので、次のように一行で済ましてしまうこともある。

$\displaystyle f:X \ni x \mapsto f(x) \in Y
$

いずれの表記法でも、 正しく書く習慣をつければ必ず $ X,Y$ が何かまで書くことができることに 注意する。具体的には次の例を見よ。

例 7.2   つぎの各々はそれぞれ(別々の)写像である。
  1. % latex2html id marker 1178
$ f_\theenumi:$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ \ni x \mapsto x \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$
  2. % latex2html id marker 1183
$ f_\theenumi:$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ \ni x \mapsto x^2 \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$
  3. % latex2html id marker 1188
$ f_\theenumi:$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ _{>0} \ni x \mapsto x^2 \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$
  4. % latex2html id marker 1193
$ f_\theenumi:$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ _{>0} \ni x \mapsto x^2 \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ _{>0}$
  5. % latex2html id marker 1199
$ f_\theenumi:{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}\ni n \mapsto 2 n \in \mbox{${\mathbb{R}}$}$
  6. % latex2html id marker 1201
$ f_\theenumi:{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}\ni n \mapsto 2 n \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$

対応 $ x\mapsto f(x)$ についてとくに言及する必要のない場合には、 下記のように 「写像 $ f: X\to Y $ 」 とか、 「 $ X \overset{f}{\to} Y$ 」 と省略して書くこともある。

定義 7.3   写像 $ f: X\to Y $ に対してそのグラフ

$\displaystyle \Gamma_f=\{ (x,f(x)) \vert\ x \in X\} \subset X\times Y
$

で定義する。

問題 7.1   例 7.2 の写像のそれぞれについてそのグラフを描け。

関数をそのグラフでもって定義することもできる。

定理 7.4   集合 $ X,Y$ について次のことが言える。
  1. 任意の関数 $ f: X\to Y $ のグラフ $ \Gamma=\Gamma_f$ はつぎの性質(G)を持つ。

    性質(G)
    任意の $ x_1\in X $ に対して、 「縦線集合」

    $\displaystyle \{x_1\}\times Y =\{(x_1,y)\vert\ y \in Y\}
$

    $ \Gamma $ との共通部分はちょうどひとつの元からなる。

  2. 逆に、$ X\times Y$ の部分集合 $ \Gamma $ が性質 (G) を持つならば、 $ \Gamma $ はある一つの写像 $ f: X\to Y $ のグラフである。

言い換えると、$ X$ から $ Y$ への写像と $ X\times Y$ の特別な部分集合 を同一視することができる。この考え方をさらに一般化して、$ X\times Y$ の部分集合を 与えることで $ X$ から $ Y$ への「対応」や、 「関係」という概念を定義することもできる。そのことについてはもっとあとで 扱おう。

解析学で言えば、連続写像、微分可能写像、代数で言えば、準同型写像のように 「...を満たす写像」を考えることは大変多いし、基本でもある。 数学を学ぶ上で、そのようなものを構成する必要が生じることも多いだろう。 そのさい、 それが写像であることをチェックするのは当然必要であるし、 場合によっては仕事の大半を占める。

問題 7.2   つぎの各々はそれぞれ写像であろうか。
  1. % latex2html id marker 1266
$ g_\theenumi:$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ \ni x\mapsto x \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ .
  2. % latex2html id marker 1270
$ g_\theenumi:$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1272
$ \ni x \mapsto \sqrt{x} \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ .
  3. % latex2html id marker 1275
$ g_\theenumi:$   $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$$ \ni x \mapsto
($$x$ を既約分数で書いた時の分母の絶対値$ )
\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ .
  4. % latex2html id marker 1280
$ g_\theenumi:$   $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$$ \ni x \mapsto
($$x$ を分数で書いた時の分母$ )
\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ .
  5. % latex2html id marker 1285
$ g_\theenumi:$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ \ni x \mapsto
($$x$ を10進展開した時の小数第一位$ )
\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$

写像が「うまく定義されていない」のは曖昧さが排除されていない せいであることがある。そのような場合には言葉を付け足して曖昧さを 排除することにより写像の定義を完成できることがある。

◎全射、単射、全単射。

定義 7.5   写像 $ f: X\to Y $
  1. % latex2html id marker 1297
$ \forall y\in Y \exists x \in X \quad (f(x)=y) $ を満たすとき、 $ f$全射であるという。
  2. % latex2html id marker 1301
$ \forall x_1,x_2 \in X (x_1\neq x_2 \implies f(x_1)\neq f(x_2))$ を満たすとき、$ f$単射であるという。
  3. 全射かつ単射であるとき、$ f$全単射であるという。

全射、単射、全単射の判定には、$ X,Y$ としてどのようなものを 考えているかが大変重要な意味を持つ。

問題 7.3   例 7.2 の各々は全射、単射、全単射であるだろうか。

グラフの言葉で言えば、次のようなことになる。

定理 7.6   写像 $ f: X\to Y $ が,
  1. 単射であることは、任意の $ y_1\in Y$ にたいして、 $ \Gamma_f$ と「横線集合」 $ X\times \{y_1\}$ との共通部分がたかだか一点からなる(つまり、一点かもしくは空集合である) ことと同値である。
  2. 全射であることは、任意の $ y_1\in Y$ にたいして、 $ \Gamma_f$ と横線集合 $ X\times \{y_1\}$ との共通部分が 少なくとも一点存在すること同値である。

  3. 全単射であることは、任意の $ y\in Y$ にたいして、 $ \Gamma_f$ と横線集合 $ X\times \{y_1\}$ との共通部分が ちょうど一点存在すること同値である。


next up previous
Next: About this document ...
2012-07-12