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線形代数学概論 A No.5要約

\fbox{今日のテーマ} 行列の積、和、スカラー倍

(言うのをウッカリしていましたが、ベクトル空間のことを線形空間とも言います。) ベクトル空間を比較するには線形写像を用います。 線形写像とは、和と、スカラー倍を保つような写像のことでした。 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ から他のベクトル空間 $ W$ への線形写像 $ f$ は 基本ベクトルの行き先 $ \{f(\mathbbm e_1),f(\mathbbm e_2),\dots, f(\mathbbm e_n)\}$ だけを決めれば定まるのでした。

&dotfill#dotfill;

記法に関する復習と補足。

$\displaystyle \begin{pmatrix}
a_{ij}
\end{pmatrix}_{ij}
$

とは、$ i,j$ 成分($ i$$ j$ 列にある数値)が $ a_{ij}$ の行列、という意味である。 サイズは状況に応じて判断するとよい。例えば $ 2\times 3$ 行列 (2行3列の行列)なら、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
a_{ij}
\end{pmatrix}_{ij}
=
\begin{pmatrix}
a_{11} &a_{12}& a_{13} \\
a_{21} &a_{22}& a_{23} \\
\end{pmatrix}$

という具合である。 ここでの $ i$$ j$ という変数は全くのその場しのぎの変数であって、 $ (a_{ij})_{ij}$ $ (a_{st})_{st}$ と書いても $ (a_{uv})_{uv}$ と書いても全く同じ意味になる。

行列算は世間ではよくある表計算を抽象化したものである。

例 5.1   鶴が $ x$ 羽、亀が $ y$ 匹いるとき、頭と足はそれぞれいくつか。

答:

$\displaystyle \begin{pmatrix}
1 & 1 \\
2 & 4
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
1 x+ 1 y \\
2 x + 4 y
\end{pmatrix}$

行列 $ A=\begin{pmatrix}
1 & 1 \\
2 & 4
\end{pmatrix}$ は「鶴亀行列」であり、その第一列 $ \begin{pmatrix}
1 \\
2
\end{pmatrix}$ は、鶴の頭と足(の個数)を、第二列 $ \begin{pmatrix}
1 \\
4
\end{pmatrix}$ は亀の頭と足(の個数)をそれぞれ成分として並べたものである。

「鶴、亀」は本物の動物と言うよりは、 ギフトセットか何かの名前と思うほうがフイットするかもしれない。 「頭、足」も中の金銀や宝石のたぐいととみるとどうだろうか。

例 5.2  

鶴亀セット。

松: $ \begin{pmatrix}
9 \\
6
\end{pmatrix}$ (鶴 9 亀6)      竹: $ \begin{pmatrix}
8 \\
5
\end{pmatrix}$ (鶴 8 亀5)      梅: $ \begin{pmatrix}
7 \\
4
\end{pmatrix}$ (鶴 7 亀4)

$ a$ セット、竹 $ b$ セット、梅 $ c$ セットを贈ると、 贈った鶴亀の総数は、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
9 & 8 & 7 \\
6 &5 &4
\end{pmatrix}\begin{pmatri...
...\ c
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
9a + 8b +7 c \\
6a +5 b +4 c
\end{pmatrix}$

で与えられる。 $ B=\begin{pmatrix}
9 & 8 & 7 \\
6 &5 &4
\end{pmatrix}$ は「鶴亀セットの行列」である。

このとき「頭」と「足」の総数は

$\displaystyle \begin{pmatrix}
1 & 1 \\
2 & 4
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
9a +...
...\
6a +5 b +4 c
\end{pmatrix}=
A (B
\begin{pmatrix}a \ b \ c \end{pmatrix})
$

で与えられる。 $ \mathbbm v=\begin{pmatrix}a\\ b \\ c \end{pmatrix}$ とおいて少し計算すると、この答えは、

$\displaystyle A(B\mathbbm v)=
\begin{pmatrix}
15 & 13 & 11\\
42 & 36 & 30
\end{pmatrix} \mathbbm v
$

と一致することが分かる。右辺に現れる行列が行列の積であって、まとめて書くと、 与えられた(既存の)行列 $ A$ ,$ B$ にたいして

$\displaystyle (AB)\mathbbm v
=
A(B\mathbbm v)
$

という式により新しい行列 $ AB$ が定まっているわけである。

線形写像の和。

命題 5.1   $ V,W$ はベクトル空間であるとする。 $ f_1,f_2$ がともに $ V$ から $ W$ への線形写像であるとする。 このとき、$ f_1$$ f_2$ の和を

% latex2html id marker 1067
$\displaystyle (f_1+f_2)(\mathbbm v)=f_1(\mathbbm v)+f_2 (\mathbbm v) \qquad (\mathbbm v \in V)
$

で定義すると、 $ f_1+f_2$ も線形写像である。

上の命題の仮定のもと、 $ f_1$ を表現する行列を $ A_1$ , $ f_2$ を表現する行列を $ A_2$ とおくと、 上の命題により $ f_1+f_2$ を表現する行列が 存在するはずである。 この行列のことを $ A_1+A_2$ と書いて、行列 $ A_1$$ A_2$ の 和と呼ぶ。 $ A_1=(a_{ij})_{ij}$ , $ A_2=(b_{ij})_{ij}$ と成分で書くと、 $ f_1+f_2=(a_{ij}+b_{ij})_{ij}$ (つまり、成分ごとの和)である。

線形写像の差、行列の差も同様にして定義される。

命題 5.2   ベクトル空間 $ V$ から $ W$ への線形写像 $ f$ と、実数 $ c$ に対して、 $ (cf)(\mathbbm v)=c (f \mathbbm v)$ によって定まる写像 $ cf$ はやはり線形写像である。 $ f$ の表現行列を $ A=(a_{ij})_{ij}$ とおくと、$ cf$ の表現行列は $ (c a_{ij})_{ij}$ である。(つまり、成分ごとの $ c$ 倍).

命題 5.3   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ 上のベクトル空間 $ V,W$ が与えられているとする。 このとき、$ V$ から $ W$ への線形写像の全体は上述の和とスカラー倍について ベクトル空間をなす。これを $ \operatorname{Hom}_{\mbox{${\mathbb{R}}$}}(V,W)$ と書く。

命題 5.4   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ 上の $ m\times n$ 行列の全体のことを $ M_{mn}($$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ )$ と書く。これは 上述の、行列の和とスカラー倍に関してベクトル空間をなす。

※レポート問題

問題 5.1   % latex2html id marker 1153
$ a,b,c,p,q$ は実数であるとする。このとき

% latex2html id marker 1155
$\displaystyle \begin{pmatrix}
-1 & a \\
0 & b \\ ...
...5 & q
\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}
4 & -p \\
-5 & 3-q
\end{pmatrix}\right)
$

を計算せよ。


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2013-05-13