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論理と集合要約 No.5

第5回目の主題 : \fbox{集合の和集合や共通部分(2)、直積集合}

論理と集合は裏腹の関係にあり、集合の包含関係(含む、含まれるの関係)は 対応する論理で証明するのが良いのでした。

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問題 5.1   $ 2 {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}\subset 5 {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ だろうか。

問題 5.2   $ 2 {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}\subset 6 {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ だろうか。

◎直積集合

一般に, 元 $ x$ と 元 $ y$ を順序をつけて並べたもの $ (x,y)$$ x,y$ のペア(組)と呼ぶ。 $ x,y$ が実数の場合には開区間と全く同じ記号になってしまっていて、 紛らわしいのだが、 区別するときには「区間 $ (x,y)$ 」,「ペア(組) $ (x,y)$ 」と前につけると 良いだろう。

定義 5.1   集合 $ X,Y$ に対して、$ X$ の元と $ Y$ の元のペアの全体の集合

$\displaystyle \{(x,y); x \in X , y\in Y\}
$

$ X$$ Y$直積集合といい、 $ X\times Y$ で書き表す。

もっと一般に、 集合族 $ \{X_\lambda\}_\lambda \in \Lambda$ に対して、

$\displaystyle \{(x_\lambda)_{\lambda \in \Lambda}; x_\lambda \in X_\lambda \}
$

$ \{X_\lambda\}$直積集合といい、 $ \prod_{\lambda \in \Lambda}X_\lambda$ で書き表す。

直積集合は「積の集合」ではない。そのことを強調するため、 直積集合のことを「デカルト積集合」とか「集合としての直積」と呼ぶこともある。

$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ \times$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ のことを $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2$ , $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2\times$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ のことを $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^3$ 等と 略記する。

$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ が出てきたついでに、それを扱う際に基本になる 「開集合、閉集合」について 説明しておこう。

以下では絶対値の性質を用いる。高校でよく出てくる性質の他、大切なのは

% latex2html id marker 1263
$\displaystyle \vert x+y\vert\leq \vert x\vert+\vert y\vert
$

という性質であろう。この不等式は三角不等式と呼ばれる。

問題 5.3   $ D_1=\{(x,y)\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2; \vert x\vert+\vert y\vert<1 \} $ , $ B_1=\{(x,y)\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2; x^2+y^2<1\}$ とおくとき、 $ D_1 \subset B_1$ だろうか。

問題 5.4   $ D_{1/2}=\{(x,y)\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2; \vert x\vert+\vert y\vert<1/2 \} $ , $ B_{1/2}=\{(x,y)\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2; x^2+y^2<1/4\}$ とおくとき、 $ D_{1/2} \subset B_{1/2}$ だろうか。

問題 5.5   正の実数 $ r$ に対して、 $ D_{r}=\{(x,y)\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2; \vert x\vert+\vert y\vert<r \} $ , $ B_{r}=\{(x,y)\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2; x^2+y^2<r^2\}$ とおくとき、 $ D_r \subset B_r$ だろうか。

$ v=(v_1,v_2,\dots,v_n) \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ にたいし、そのノルム (ユークリッドノルム)を

% latex2html id marker 1316
$\displaystyle \vert\vert v\vert\vert=\sqrt{v_1^2+v_2^2+ \dots + v_n^2}
$

で定義する。このとき、 $ v=(v_1,v_2,\dots,v_n) \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ , $ w=(w_1,w_2,\dots, w_n)$ にたいして、

% latex2html id marker 1324
$\displaystyle \vert\vert v+w\vert\vert \leq \vert\vert v\vert\vert +\vert\vert w\vert\vert
$

がなりたつ。(三角不等式。) このことの証明は内積の定義と性質を用いたほうが良いので ここでは省く。興味のある人は線形代数の教科書を見てみること。

一般に、 $ a\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$$ r>0$ に対して、

$\displaystyle B_r(a)=\{ x \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ^n; \vert\vert x-a\vert\vert< r\}
$

($ a$ を中心とする半径 $ r$ のボール。)とおく。

問題 5.6   $ v\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の ノルムを $ R$ とおくと、

$\displaystyle B_r(v) \subset B_{(R+r)}(0)
$

が成り立つことを証明せよ。

一般に、 $ a\in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$$ r>0$ に対して、 $ a$ を中心とした半径 $ r$ の開球体を

$\displaystyle B_r(a)=\{ x \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ^n; \vert\vert x-a\vert\vert< r\}
$

で、また、閉球体を

$\displaystyle \bar{B}_r(a)=\{ x \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1369
$\displaystyle ^n; \vert\vert x-a\vert\vert\leq r\}
$

でそれぞれ定義する。

$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の部分集合 $ U$

$\displaystyle \forall x \in U \exists r \in$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1378
$\displaystyle _{>0} \quad B_r(x) \subset U
$

を満たすとき、(通常位相に関して)開集合であると呼ばれる。 開集合とは、「境界を含まない集合」ということの数学的な表現である。

開集合というものをベースにして、「遠い」「近い」「つながっている」などの 概念を数学的に取り扱えるようにしたものが位相空間論である。 位相空間論は現代数学において大変重要な位置を占めていて、 進んで数学を学びたい人は、例えば微分積分学の学習と並行して学習してみるのも オススメである。

「境界」という言葉自体も数学的に表現できるが、 ここではそこまでは踏み込まないことにする。

問題 5.7   開球 $ B_1(0)$ は開集合であることを示しなさい。

問題 5.8   閉球 $ \bar{B}_1(0)$ は開集合ではないことを示しなさい。

問題 5.9   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^2$ の部分集合 $ \{(x,0) ; x \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ \}$ は開集合ではないことを示しなさい。

問題 5.10   任意の $ a,b \in$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ と任意の正の数 $ r_1,r_2$ にたいして、 $ B_ {r_1}(a)\cap B_{r_2}(b) $ は開集合であることを示しなさい。

問題 5.11   任意の

$\displaystyle \bigcap_{n=1}^\infty B_{1+1/n} (0)=\bar B_1(0)
$

であることを示しなさい。

一般に、開集合の2つの共通部分は開集合だが、 無限個の共通部分は開集合とは限らない。

今回は、「ノルム」として標準的なもの(ユークリッドノルム)を用いたが、 それ以外の「ノルム」に関しても $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$$ ^n$ の位相が定義され、 じつは結局それらは一致する。つまり、 与えられた集合が開集合かどうかは どのノルムで考えても、 変わらない。このことは、開集合という概念がノルムより基本にあることを 意味している。


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2014-05-15