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代数学II要約 No.7

第7回目の主題 : \fbox{PID 上の有限生成加群(2)}

補題 7.1   PID $ A$ 上の加群 $ M$ の元の組 $ \underline x=
(x_1,x_2,\dots,x_k)$ が与えられているとする。さらに、 $ \underline x$ の関係式 $ \underline{a}=(a_1,\dots,a_k)$ および $ \underline{b}=(b_1,\dots,b_k)$ が与えられているとする。 つまり、2つの関係式

\begin{displaymath}
\begin{cases}
a_1 x_1 + a_2 x_2 + \dots + a_k x_k=0 \\
b_1 x_1 + b_2 x_2 + \dots + b_k x_k=0 \\
\end{cases}\end{displaymath}

が与えるとする。内積の記法の真似をして、このことを $ \underline{a} \cdot \underline{x} =0$ , $ \underline{b} \cdot \underline{x} =0$ と表記しよう。 このとき、ある % latex2html id marker 885
$ p,q,r,s \in A$ が存在して、次のことが成り立つ。
  1. % latex2html id marker 887
$ p s -q r = 1.$
  2. % latex2html id marker 889
$ p a_1 + q b_1= \gcd(a_1,b_1)$ .
  3. $ r a_1 + s b_1=0$ .
そこで、 % latex2html id marker 893
$ \underline{c}= p \underline{a} + q \underline{b}$ , $ \underline{d}=r\underline{a}+ s \underline{d}$ とおくと、 $ \underline c,\underline d$ $ \underline a,\underline b$ と同等の 関係式(つまり、互いに他から導かれる関係式)で、

% latex2html id marker 901
$\displaystyle c_1=\gcd(a,b),\quad d_1=0
$

をみたす。

補題 7.2   PID $ A$ 上の有限生成加群 $ M$ が与えられているとし、 No.6 の記法を用いることとする。 $ \underline{x}\in \mathcal S_M$ と、そのみたす関係式 $ \underline a$ ( $ \underline a \cdot \underline x=0$ をみたす $ \underline a$ ) の組 を全て考える。これらの全ての組み合わせについて、 $ \gcd(\underline{a})=\gcd(a_1,a_2,\dots,a_k)$ を考えた時、それらの中で(整除に関して) 極小なものが存在する。 その一つを以下 $ d_0$ と書こう。このとき、
  1. $ d_0=0$ なら $ M$ は自由加群である。 以下、% latex2html id marker 928
$ d_0\neq 0$ とする。

  2. ある $ \underline u=(u_1,u_2,\dots, u_k) \in \mathcal S_M$ が存在して、

    $\displaystyle d_0 \cdot u_1=0
$

    なる関係式が成立する。以下この $ \underline{u}$ について考える。
  3. $ \underline{u}$ の任意の関係式 $ (a_1,a_2,a_3,\dots, a_k)$ について、 その各成分 $ a_1,a_2,\dots, a_k$ は各々 $ d_0$ で割り切れる。
  4. $ M$$ A u_1$ $ A u_2+\dots+ A u_k$ の直和と同型である。

この補題を用いると、前回の定理よりすこし強い主張をすることができる。

定理 7.3   可換 PID $ A$ 上の有限生成加群 $ M$ が与えられているとする。 このとき、$ M$ の生成系 $ \underline{m}=\{m_1,m_2,\dots, m_k\}$ にたいして、 $ \underline m$ を(変換1),(変換2),(変換3)を有限回繰り返すことにより、 $ M$ の新しい生成系 $ \underline w$ であって、

% latex2html id marker 969
$\displaystyle M \cong Aw_1 \oplus A w_2 \oplus \dot...
..._1 A \oplus A /a_2 A \oplus \dots \oplus A /a_k A
\qquad(a_1,\dots, a_k \in A)
$

(巡回加群の直和)となるものが存在する。

さらに、上の同型は $ a_k \vert a_{k-1} \vert a_{k-2} \vert \dots \vert a_2 \vert a_1$ となるように取れる。

系 7.4 (有限生成アーベル群の基本定理)   任意の有限生成アーベル群 $ G$ は巡回群の有限個の直和である。 もっと詳しくは、$ G$

$\displaystyle {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/a_1 {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}\oplus {\mbox{...
...{Z}}$}}\oplus \dots \oplus {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/a_k {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}
$

( $ a_1,a_2,\dots,a_k\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ ) という加群とアーベル群として同型である。

7.4の応用として、次の定理を挙げておく。

定理 7.5   体 $ K$ の乗法群 $ K^\times$ の有限部分群は常に巡回群である。 とくに、有限体の乗法群はかならず巡回群である。



Yoshifumi Tsuchimoto 2016-06-02