代数学III要約 No.5

今日のテーマ: 既約性の判定

今回は少しガロア理論の本筋からは外れる。 これまで、個々の例の多項式の既約性について証明なしに議論してきたが、 だんだん不自由になってきたのでここでまとめておくことにする。

代数についてよく学びたい人のための注: 今回の議論は $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ とその商体 $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ に関してのべるが、 一般の UFD $ R$ とその商体 $ K=Q(R)$ に関しても同様なことが成り立つ。

次の命題は多項式の既約性判定の際に整数係数と有理係数の差を うまく処理してくれる:

命題 5.1   $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上の多項式 $ f(X) \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上で可約ならば、 $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上でも可約である。

証明には「ガウスの補題」を用いる。その説明のために ひとつ言葉を用意しておこう。

定義 5.2   $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 上の多項式 $ f(X) \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$原始的であるとは $ f$ の係数のすべてを割るような整数が $ \pm 1$ しかないときにいう。 言い換えると、原始的多項式とは係数の gcd が $ 1$ の多項式である。

補題 5.3 (ガウス)   原始多項式 $ f,g\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ の積 $ fg$ はまた原始的である。

命題 5.4   多項式 $ h\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ が多項式 $ f,g\in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ の積の時、
  1. $ h$ の定数項は $ f$ の定数項と $ g$ の定数項の積である。
  2. $ h$ の最高次の係数は $ f$ の最高次の係数と $ g$ の最高次の係数との 積である。
とくに、モニックな $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ の多項式がもし可約ならばそれはモニックな因数を持つ。

命題 5.5   体 $ K$ 上の 3次もしくは2次の多項式 $ f\in K[X]$ について、 $ f$$ K$ の中に根を持たなければ $ f$$ K$ 上既約である。

定理 5.6 (アイゼンシュタイン)   $ {\mbox{${\Bbb Z}$ }}$ を係数にもつモニックな

$\displaystyle f(X)=X^k+a_{k-1}X^{k-1}+a_{k-2}X^{k-2}+\dots+a_0
$

が、ある素数 $ p$ に対して、次の二つの性質をもつとする。

  1. % latex2html id marker 1086
$ f(X)=X^k \quad\pmod{ p}$
  2. $ f(X)$ の定数項は $ p^2$ で割り切れない。
このとき、 $ f$ $ \mbox{${\Bbb Q}$ }$ 上既約である。

次のこともよく用いる。

定理 5.7   任意の $ f\in k[X]$ と任意の定数 $ c\in k$ に対して、

$ f(X)$ が既約 $ {\Leftrightarrow}$ $ f(X+c)$ が既約.

定理 5.8   モニックな整係数多項式 $ f(X) \in {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}[X]$ が与えられているとする。 ある素数 $ p$ に対して $ f$ $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}/p{\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ 係数の多項式として既約なら、 $ f$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$$ [X]$ の元として既約で ある。

問題 5.1   $ X^2-6$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上既約であることを示しなさい。 (今回はもちろん % latex2html id marker 1138
$ \sqrt{6}$ が無理数であることを使ってはならない。)

問題 5.2   $ X^3-X-1$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上既約であることを示しなさい。