代数学III要約 No.10

今日のテーマ:3次・4次の方程式の解法

3次方程式

$\displaystyle X^3-a X^2+b X- c=0
$

を解こう。 この方程式の根を $ x_1,x_2,x_3$ とする。 根が何であるか、具体的に知らないわけだが、その存在は既に知っている。 $ x_1,x_2,x_3$ の持つ性質から逆算して、その解き方を見ようというわけだ。

$\displaystyle X^3-a X^2+b X -c =(X- x_1)(X- x_2)(X-x_3)$ (★)

を展開することにより、いわゆる根と係数の関係

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$\displaystyle x_1+x_2+x_3=a ,\quad
x_1 x_2 +x_2 x_3 +x_3 x_1=b,\quad
x_1 x_2 x_3=c
$

が得られる。$ a,b,c$ は知っている数だから、 $ x_1,x_2,x_3$ の 基本対称式の値を知っているということになる。 $ x_1,x_2,x_3$ の対称式の値もこれらから( $ x_1,x_2,x_3$ の値を個別に知らなくても) 計算できる。 したがって、如何にして便利な対称式を作るか、が大事になる。

ラグランジュの分解式

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$\displaystyle r_1=x_1 +\omega x_2 +\omega^2 x_3,\quad r_2=x_1 +\omega^2 x_2 +\omega x_3$ (R1)

を考えてみよう。(ただし % latex2html id marker 874
$ \omega=(-1+\sqrt{-3})/2$.) これら自体は $ x_1,x_2,x_3$ の対称式ではないが、

補題 10.1   $ t_1=r_1^3+r_2^3$ $ t_2=r_1^3 r_2^3$ はともに $ x_1,x_2,x_3$ の 対称式である。

実際、

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$\displaystyle t_1=2 a^3 - 9 a b +27 c, \quad
r_1 r_2=a^2-3 b,\quad
t_2= (a^2-3b)^3.
$

このことから、 $ r_1^3,r_2^3$ を二次方程式

$\displaystyle X^2-t_1 X +t_2=0
$

の二根として計算することができて、 あとはその3乗根として $ r_1,r_2$ を計算できる。 そこから $ x_1,x_2,x_3$ を 出すのは連立一次方程式を解けばよい(ラグランジュの分解式二つと 根と係数の関係の一番目の式)ので簡単である。

4次方程式の場合を考えよう。 根を $ x_1,x_2,x_3,x_4$ とおくと、

$\displaystyle X^4-a X^3+b X^2 -c X +d =
(X- x_1)(X- x_2)(X-x_3)(X-x_4).
$

ここから根と係数の関係が得られ、やはり $ x_1,x_2,x_3,x_4$ の 対称式は $ a,b,c,d$ から( $ x_1,x_2,x_3,x_4$ の値を知らなくても) 計算できる。

ラグランジュの分解式として、

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$\displaystyle r_1=x_1 - x_2 +x_3-x_4, \quad
r_2=x_1 - x_2 -x_3+x_4, \quad
r_3=x_1 + x_2 -x_3-x_4
$

をとる。 $ r_1^2,\ r_2^2,\ r_3^2$ の基本対称式

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$\displaystyle s_1= r_1^2 +r_2^2+r_3^2, \quad
s_2=r_1^2 r_2^2 +r_2^2 r_3^2 +r_3^2 r_1^2 , \quad
s_3=r_1^2 r_2^2 r_3^2
$

はそれぞれ $ x_1,x_2,x_3,x_4$ の対称式になっていることが分かり、したがって $ a,b,c,d$ から計算できる。 すなわち、 $ r_1^2,\ r_2^2,\ r_3^2$

$\displaystyle X^3 -s_1 X^2 + s_2 X - s_3
$

の三根であるから、前段のように巾根を用いて $ a,b,c,d$ から計算できる。 あとはその平方根を計算すれば、 $ r_1,r_2,r_3$ が計算されて、 一次方程式の根として $ x_1,x_2,x_3,x_4$ が計算されるという仕組である。

問題 10.1   3次方程式の解法において、 $ x_1,x_2,x_3$ の置換(6つある)によって(R1)の分解式 $ r_1,r_2$ が それぞれどのように変化するか、実際に書き下しなさい。

問題 10.2   4次方程式の解法で前問と同様のことを考えてみなさい。

[ガロア対応の証明]

$ K$ のガロア拡大 $ L$ が与えられているとする。 $ G=\operatorname{Gal}(L/K)$ の部分群 $ H$ に対して、

$\displaystyle \mathcal F(H) = \{ x \in L; g.x = x (\forall g \in H)\}
$

と定義する。$ L$$ K$ の中間体 $ M$ に対して、

$\displaystyle \mathcal G(M)=\{ g \in G; g.x=x (\forall x \in M)\}
$

と定義する。この時、次のことが成り立つ。(単調減少性)
  1. $ G$ の任意の部分群 $ H_1,H_2$ に対して、

    $\displaystyle H_1\subset H_2 \implies \mathcal F (H_1)\supset \mathcal F(H_2).
$

  2. $ L/K$ の任意の中間体 $ M_1,M_2$ に対して、

    $\displaystyle M_1\subset M_2 \implies \mathcal G (M_1)\supset \mathcal G(M_2).
$

  3. $ G$ の任意の部分群 $ H$ にたいして、

    $\displaystyle \mathcal G (\mathcal F(H)) \supset H.
$

  4. $ L/K$ の任意の中間体 $ M$ に対して、

    $\displaystyle \mathcal F(\mathcal G(M))\supset M.
$

実は、上の (1)-(4) から、全く形式的な計算で次のことが成り立つことがわかる。

("3回=1回")

  1. $ G$ の任意の部分群 $ H$ にたいして、

    $\displaystyle \mathcal F (\mathcal G (\mathcal F(H))) =\mathcal F(H).
$

  2. $ L/K$ の任意の中間体 $ M$ に対して、

    $\displaystyle \mathcal G (\mathcal F(\mathcal G(M)))=\mathcal G(M).
$

ガロア理論では、さらに次のことが分かる。(狭義単調減少性)

  1. $ G$ の任意の部分群 $ H_1,H_2$ に対して、

    $\displaystyle H_1\subset H_2, \mathcal F(H_1)= \mathcal F(H_2) \implies H_1=H_2
$

    (補題9.2による。)
  2. $ L/K$ の任意の中間体 $ M_1,M_2$ に対して、

    $\displaystyle M_1\subset M_2 , \mathcal G (M_1)=\mathcal G(M_2) \implies M_1 = M_2.
$

    (命題8.5による。)

このことから、最後に次のことが分かる。

("2回=0回")

  1. $ G$ の任意の部分群 $ H$ にたいして、

    $\displaystyle \mathcal G (\mathcal F(H)) = H.
$

  2. $ L/K$ の任意の中間体 $ M$ に対して、

    $\displaystyle \mathcal F(\mathcal G(M))=M.
$