任意の体 $K$ に対して $K$ を含む代数的閉体が存在する。

定理 0.1   任意の体 $K$ に対して $K$ を含む代数的閉体が存在する。

証明. $K$ 上の 既約一変数モニック多項式をすべて考え、それらを

$\displaystyle \{p_\lambda; \lambda \in \Lambda\}
$

とおく。 添字集合 $\lambda \in \Lambda $ のそれぞれに対して変数 $X_\lambda$ を 一つづつ取り、無限変数の多項式環 $R=K[\{X_\lambda; \lambda \in \Lambda\}]$ を考えよう。

$R$ の元とは、$\Lambda$ から有限個 $\lambda_1,\lambda_2,\dots, \lambda_n$ をとって、それらの変数の多項式、 すなわち $K[X_{\lambda_1},\dots, X_{\lambda_n}]$ の元を考えたものである。別の言い方をすると:

$\displaystyle R=K[\{X_\lambda; \lambda \in \Lambda\}]=
\bigcup_{n=1}^\infty
\le...
...n \in \Lambda}
K[
X_{\lambda_1},
X_{\lambda_2},
\dots ,X_{\lambda_n}]
\right)
$

である。

多項式環の現代的な定義は、 「代入原理を満たす環のうち普遍的なもの」という形で 与えられる。

さて、$\Lambda$ の各元 $\lambda$ に対して、$K$ 上の一変数多項式が 対応するわけだから、これを $p_\lambda=p_\lambda(X)$ とおく。

$R$ のイデアル $I$

$\displaystyle I=(\{p_\lambda(X_\lambda); \lambda \in \Lambda\})
$

で定義する。

主張1: % latex2html id marker 951
$ I\neq R$.

証明. $I=R$ とすると、$1\in I$, すなわち、ある $s_1,s_2,\dots s_n \in R$ と 有限個の $\lambda_1,\dots, \lambda_n\in \Lambda$ が存在して、

$\displaystyle 1=\sum s_i p_{\lambda_i}(X_{\lambda_i})
$

がなりたつ。簡単のために、変数の名前を取り替えて、 $\lambda_1,\dots, \lambda_n$ $1,\dots, n$, その他 $\{s_i\}$ に 出てくる変数を全部で % latex2html id marker 973
$ X_1,\dots, X_N \ (N\geq n)$ と書くと、

$\displaystyle 1=
s_1(X_1,\dots,X_N) p_{1}(X_{1})+
s_2(X_1,\dots,X_N) p_{2}(X_{2})+
\dots +
s_n(X_1,\dots,X_N) p_{n}(X_{n})$ (あ)

という関係式が成り立つことになる。 $K$ の有限次拡大体 $F$ で、 $p_{1},\dots, p_{n}$ の 根 $a_1,\dots, a_n$ をすべて含むもの (積 $p_1\cdot \dots \cdot p_n$ の分解体:命題4.2参照)を取れば、 (あ)はもちろん $F$ 上の 多項式としても成立している。(あ)の両辺に $X_{1}=a_1, X_{2}=a_2, X_{n}=a_n $ を代入すると、 $1=0$ となって矛盾を得る % latex2html id marker 954
$ \qedsymbol$

主張 1 と Zorn の補題により、 $I$ を含む $R$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ が存在することがわかる。 そこで、

$\displaystyle L=R/\mathfrak{m}
$

とおくと、 次の3つのことが成り立つ。
[
l](※)
  1. $L$ は体である。
  2. $K \subset L$ .
  3. $K$ 上の任意の既約一変数モニック多項式 $p$ にたいして、 その少なくとも一つの根が $L$ 内に存在する。
(3) について一応説明しておくと、$\Lambda$ の定義により、 $\exists \lambda \in \Lambda$ が存在して、 $p=p_\lambda$ がなりたつ。 $\lambda$ に対応する変数 $X_\lambda$ に対し、$I$ の定義により

$\displaystyle p_\lambda (X_\lambda) \in I\subset \mathfrak{m}
$

であり、ゆえに $X_\lambda$$L$ でのクラスを $a_\lambda $ と書けば $p_\lambda(a_\lambda)=0$ である。

さて、実は次の主張が成り立つ。これを用いれば定理0.1の証明が終了する。

[
l]主張2 (※)を満たす$L$ が与えられているとする。このとき、

$\displaystyle M=\{x \in L;$ $x$ は $K$ 上代数的$\displaystyle \}
$

とおけば、$M$$K$ を含む代数閉体である。

が、主張2の証明は難しい上に、本講義のまだ証明していない結果を多数用いるので、 この時点でこれを用いるのは適当ではない。

そこで、主張2の代わりに 次のような間に合せの議論でさしあたって満足しておくことにする。

$K$ にたいして、先程の議論で $L$ という体を作ることができた。 これを $E_1$ と呼び替えることとする。 $K$ 上の一変数多項式は必ず $E_1$ に一つの根を持つ。 $E_1$ に同様の操作を行うことにより、$E_1$ の 拡大体 $E_2$ を作ることができる。 $K$ 上の一変数多項式は必ず $E_2$ に一つの根を持つ。 これを繰り返して

$\displaystyle K\subset E_1 \subset E_2 \subset E_3 \subset \dots\subset E_n \subset \dots
$

という体の拡大の列を得ることができる。そこで、

$\displaystyle E=\bigcup_{i=1}^\infty E_i
$

とおけば、$E$$K$ の拡大体であって、 $E$ 上の一変数多項式は必ず $E$ 内に根を持つ。 すなわち、$E$ は代数的閉体である。

% latex2html id marker 914
$ \qedsymbol$

主張2 の証明についてはまた気の向いたときに行うことにする。

この稿の作成に当たっては永田「可換体論」を用い...て済ますつもりであったが (「かわりに」以降の部分で)S. Lang の algebra も参考にした。証明全体のアイディアは E. Artin によるものと 聞く。