線形代数学II No.10要約

今日のテーマ: 行列の三角化。

今回も引き続き、行列は複素数体 $ {\mathbb{C}}$ 上で考える。

定理 10.1   $ n$ 次正方行列 $ A$ は常に三角化可能である。 すなわち、ある上半三角行列と相似である。

定義 10.2   $ {\mathbb{C}}$ 係数の $ n$-次正方行列 $ A$ と 一変数多項式 $ f(x)$ に対して、 $ f(A)$ を次のように定義する:

$\displaystyle f(x)=a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \dots + a_1 x + a_0
$

にたいして、

$\displaystyle f(A)=a_n A^n + a_{n-1} A^{n-1} + \dots+ a_1 A + a_0 E_n.
$

10.1 (定理10.1 の系:Cayley-Hamilton)   行列 $ A$ の固有多項式 $ f_A$ を考える。 $ f_A$ に行列 $ A$ を代入したもの $ f_A(A)$ は ゼロ行列に等しい。

定理10.1の証明には次のことを用いる。

補題 10.3   正方行列 $ A_1,A_2$ が相似、すなわちある正則行列 $ P$ が存在して $ A_1= P A_2 P^{-1}$ であるとき、 $ f(A_1)= P f(A_2) P^{-1}. $

補題 10.4   $ n\times n$-行列 $ A$ が、 $ (n-1)\times (n-1)$-行列 $ B$ と定数 $ \lambda$ を 用いて、 $ A=
\begin{pmatrix}
\lambda & * \\
0 & B
\end{pmatrix}$ と表せているとき、
  1. $ A^n=
\begin{pmatrix}
\lambda^n & * \\
0 & B^n
\end{pmatrix}$
  2. もっと一般に、任意の一変数多項式 $ f(x)$ に対して、

    $\displaystyle f(A)=
\begin{pmatrix}
f(\lambda) & * \\
0 & f(B)
\end{pmatrix}$

注意 10.1   補題 10.4$ \lambda$ のところが数ではなく、行列であっても (つまり、ある $ k\in \{1,2,\dots, n-1\}$ にたいして $ \lambda$$ k\times k$-行列、$ B$ $ (n-k)\times (n-k)$ 行列 であっても)同様に成り立つ。