線形代数学II No.7要約

今日のテーマ: 固有値

今回から、行列は複素数体 ${\mathbb{C}}$ 上で考える。 次の定理が使いたいからである。

定理 7.1   ${\mathbb{C}}$ 上の 0 でない任意の1変数多項式 $f$ は1次式の積に分解できる。 (代数学の基本定理)

定義 7.2   $A\in M_n({\mathbb{C}})$ に対して、 $\lambda \in {\mathbb{C}}$$A$固有値 ${\Leftrightarrow}$ % latex2html id marker 934
$ \exists \mathbbm v \neq {\pmb 0}$ such that $A \mathbbm v = \lambda \mathbbm v$.

$A$ の固有値 $\lambda$ に対して、 $A \mathbbm x = \lambda \mathbbm x$ を満たす % latex2html id marker 944
$ \mathbbm x \neq {\pmb 0}$$\lambda$ に属する $A$固有ベクトルと呼ぶ。

上の定義で「属する」のところは「対応する」という言葉を使う流儀もある。

命題 7.3   $\lambda \in {\mathbb{C}}$$A$ の固有値 ${\Leftrightarrow}$ $\operatorname{det}(\lambda E_n- A)=0$.

7.1   ${\mathbb{C}}$ 上の $n$次正方行列 $A$ は少なくとも1つの固有値を持つ。

定義 7.4   $f_A(x)=\operatorname{det}( x E_n -A)$ のことを $A$ の固有多項式、 方程式 $f_A(x)=0$ のことを $A$ の固有方程式と呼ぶ。

定理 7.5   相異なる固有値 $\lambda_1,\dots,\lambda_k$ に属する 固有ベクトル $\mathbbm x_1,\dots, \mathbbm x_k$ は一次独立である。

補題 7.6   固有値 $\lambda_1,\dots,\lambda_n$ に属する 固有ベクトル $\mathbbm x_1,\dots, \mathbbm x_n$ が一次独立であるならば、

$\displaystyle A( \mathbbm x_1,\dots, \mathbbm x_n)
=
( \mathbbm x_1,\dots, \mathbbm x_n)
{\operatorname{diagonal}}(\lambda_1,\dots, \lambda_ n)
$

の両辺に $( \mathbbm x_1,\dots, \mathbbm x_n)^{-1}$ を右から掛けて、

$\displaystyle A
=
( \mathbbm x_1,\dots, \mathbbm x_n)
{\operatorname{diagonal}}(\lambda_1,\dots, \lambda_ n)
( \mathbbm x_1,\dots, \mathbbm x_n)^{-1}.
$


定義 7.7   $A=(a_{ij})$ が対角行列であるとは、対角成分以外の 成分が 0, すなわち

% latex2html id marker 1019
$\displaystyle a_{ij}=0 \qquad( i\neq j$    のとき$\displaystyle )
$

が成り立つときにいう。

スペースの都合で、この「要約」では「対角行列 $D={\operatorname{diagonal}}(d_1,d_2,\dots,d_n)$」 という書き方をする。対角成分が $d_1,\dots, d_n$ であとは 0 であるような 行列という意味である。

対角行列同士の和や積は特別に易しい。 これは、対角行列 $D={\operatorname{diagonal}}(d_1,d_2,\dots,d_n)$ に対しては、 基本ベクトル $\mathbbm e_1,\dots, \mathbbm e_n$

% latex2html id marker 1031
$\displaystyle D \mathbbm e_1 = d_1 \mathbbm e_1,\q...
...= d_3 \mathbbm e_3,\quad
\dots , \quad
D \mathbbm e_n = d_n \mathbbm e_n,\quad
$

を満たしているからである。

命題 7.8   対角行列 $A={\operatorname{diagonal}}(a_1,\dots, a_n),$ $B={\operatorname{diagonal}}(b_1,\dots, b_n)$ に対して、
  1. $A+B={\operatorname{diagonal}}((a_1+b_1),\dots, (a_n+b_n)).$
  2. $A-B={\operatorname{diagonal}}((a_1-b_1),\dots, (a_n-b_n)).$
  3. $c A={\operatorname{diagonal}}(c a_1,\dots, c a_n)$ $(c \in$   $\mbox{${\mathbb{R}}$}$$.)$
  4. $A B={\operatorname{diagonal}}( a_1 b_1,\dots, a_n b_n).$
つまり、対角行列の線形結合、積は成分ごとに行って良い。