体論要約 No.3

今日のテーマ: \fbox{体に代数的な元を何個か付け加える}

一般に、 複素数体 ${\mathbb{C}}$ や実数体 $\mbox{${\mathbb{R}}$}$ 以外の体 $K$ でも、線形代数で習ったはずの いろいろな事柄(線形空間、基底とその取り換え、次元。線形写像とその行列表現など) がそのまま使えることに注意しておく。心配な人はここで少し復習しておくと 良いかもしれない。

定義 3.1   $K$ の 拡大体 $L$$K$ 上のベクトル空間の構造を持つ。 そこで、 $L$$K$-ベクトル空間としての次元のことを $L$$K$ 上の拡大次数 といい、 $[L:K]$ で書き表す。 $[L:K]<\infty$ のとき、$L$$K$有限次拡大であると言う。

次の命題は体の拡大次数の方程式論的な意味を明らかにする。

命題 3.2   体 $K$ の拡大体 $L$$L$ の元 $\alpha$ とが与えられているとする。 このとき、
  1. $d=[K(\alpha):K]$ が有限であることと、 $\alpha$$K$ 上代数的であることは 同値である。
  2. $d<\infty$ なら、$d$$\alpha$$K$ 上の最小多項式の次数と等しい。

命題 3.3  
  1. $K,L_1,L_2$ $K\subset L_1 \subset L_2 $ をみたすならば 拡大次数の間に

    $\displaystyle [L_2:K]=[L_2:L_1][L_1:K]
$

    という関係式が成り立つ。
  2. $K$ の有限次拡大体 $L$ の元は全て $K$ 上代数的である。

定理 3.4   体 $K$ と、その拡大体 $L$ が与えられているとする。 このとき、$L$ の 元で、$K$ 上代数的な元同士の和、差、積、商はまた $K$ 上代数的である。つまり、$L$ の元で $K$ 上代数的なものの全体 は体をなす。

定義 3.5   体 $K$ とその拡大体 $L$ が与えられているとする。このとき $L$ の元 $\alpha_1,\alpha_2,\dots,\alpha_s$$K$ に付け加えてできた体 (言い換えると $K$ $\alpha_1,\alpha_2,\dots,\alpha_s$ を含むような $L$ の 部分体のなかで、最小のもの)を $K(\alpha_1,\alpha_2,\dots,\alpha_s)$ と書く。 (環 $K[\alpha_1,\alpha_2,\dots, \alpha_s]$ との違いに注意。)

命題 3.6   体 $K$ とその拡大体 $L$ が与えられているとする。このとき $L$代数的な $\alpha_1,\alpha_2,\dots,\alpha_s$ について、次のことが成り立つ。
  1. $\alpha_1,\alpha_2,\dots,\alpha_s$$K$ に付け加えてできた体 $K(\alpha_1,\alpha_2,\dots,\alpha_s)$ の元はどれも $K$ 上代数的である。
  2. $\displaystyle K(\alpha_1,\alpha_2,\dots, \alpha_s)=K[\alpha_1,\alpha_2,\dots, \alpha_s]
$

問題 3.1   % latex2html id marker 1074
$ \alpha=\sqrt{2}+7\sqrt[3]{5}$ $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上代数的であることを示しなさい。

上の問題は間接的な解答でも良いわけだが、直接的に答える、 すなわち $\alpha$ $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上の最小多項式を実際に求めることもできる。例えば次のようにすれば良い。

問題 3.2   % latex2html id marker 1087
$ \alpha=\sqrt{2}+7\sqrt[3]{5}$ とおく。このとき、
  1. % latex2html id marker 1089
$ (\alpha-\sqrt{2})^3-1715=0$ であることを示しなさい。
  2. % latex2html id marker 1091
$ p(X)=((X-\sqrt{2})^3 -1715)((X+\sqrt{2})^3-1715)$ を展開し、それが $\mbox{${\mathbb{Q}}$}$$[X]$ の元であることを確かめなさい。
  3. 上の $p$ $p(\alpha)=0$ を満たすことを示しなさい。