理工系線形代数学 No.5要約

今日のテーマ:逆行列

行の数と列の数が同じ行列のことを正方行列というのでした。

定義 5.1   $n$ 次正方行列 $A$ が与えられているとする。 $n$ 次正方行列 $X$ が、

$\displaystyle AX=1_n = XA
$

をみたすとき、$X$ のことを $A$ の逆行列という。

命題 5.2  
  1. 正方行列 $A$ の逆行列は存在するとは限らない。
  2. $A$ の逆行列が存在する場合には、$A$ の逆行列はただひとつである。

定義 5.3   行列 $A$ の逆行列が存在するとき、$A$ は正則行列であるといい、 その逆行列のことを $A^{-1}$ と書く。

◎ 2次行列の逆行列

命題 5.4   2次正方行列 $A=
\begin{bmatrix}
a & b \\
c & d
\end{bmatrix}$ が正則であるための必要十分条件は、 % latex2html id marker 831
$ ad -b c\neq 0$ である。

% latex2html id marker 833
$ ad -bc \neq 0$ のとき、 $\Delta=ad-bc$ と書くと、$A$ の逆行列は

$\displaystyle \frac{1}{\Delta}
\begin{bmatrix}
d & -b \\
-c & a
\end{bmatrix}$

で与えられる。 (前の $\frac{1}{\Delta}$ の部分も忘れてはならないが、 後ろの部分は “主対角線は入れ替えて、あとはマイナス、マイナス” と覚えよう。)

二次行列に限らず、一般のサイズの正方行列 $A$ が逆行列を持つならば、 一次方程式

$\displaystyle A \mathbbm{x}= \mathbbm{b}
$

$A^{-1}$ を用いれば簡単に解けて、その一意的な解は

$\displaystyle \mathbbm{x}= A^{-1} \mathbbm{b}
$

で与えられる。

逆行列をもとめるのは、一次方程式をたくさん解くのと同じことである:

命題 5.5   $n$ 次正方行列 $A$ が与えられたとする。 $\mathbbm{e}_1,\dots \mathbbm{e}_n$ を基本ベクトルとする。このとき、
  1. $n$ 個のベクトル $\mathbbm {x}_1, \dots ,\mathbbm x_n$ がそれぞれ 方程式

    % latex2html id marker 866
$\displaystyle A \mathbbm {x}_1= \mathbbm {e}_1, \qu...
...\mathbbm {e}_3, \quad
\dots, \quad
A \mathbbm {x}_n= \mathbbm {e}_n
\tag{★}$

    を満たしたとする。このとき、 $X=[\mathbbm x_1\ \dots\ \mathbbm x_n]$$A X=1_n$ を満たす。
  2. 逆に、$A X=1_n$ を満たす $n$次正方行列 $X$ が 与えられれば、その列ベクトルは方程式 (★)を満たす。

この命題では $A X=1_n$ のみに言及している。逆の積 $XA$ がどうなるかについては どうしてもちょっとした議論が必要になる。