理工系線形代数学 No.8要約

今日のテーマ :行列式 (3) 余因子行列と逆行列

命題 8.1   (クラーメルの公式). 任意の $n$ 次正方行列 $A$ $A=
\begin{bmatrix}
\a _1
&\a _2
\dots
&
\a _n
\end{bmatrix}$ とブロック分割する。$A$ の行列式 $\operatorname{det}(A)$ を、 以下では $\Delta $ と書くことにする。 いま、 $n$ 次元縦ベクトル $\mathbbm x$

$\displaystyle \mathbbm x=
\begin{bmatrix}
x_1 \\
x_2 \\
\vdots \\
x_n
\end{bmatrix}$

で与える。このとき、 $A \mathbbm x=\mathbbm b
$ ならば、

$\displaystyle \operatorname{det}(A {}_{\raisebox{-1mm}{$<\!\!\!\!\!-\!\!$}}\vert _i \mathbbm b)
=
x_i \cdot \Delta
$

とくに、
  1. $\mathbbm b$ がはじめに与えられて、 % latex2html id marker 841
$ \Delta=\operatorname{det}(A)\neq 0$ ならば、 $A \mathbbm x=\mathbbm b
$ の解は

    % latex2html id marker 845
$\displaystyle x_i=\frac{\operatorname{det}(A {}_{\r...
...{-1mm}{$<\!\!\!\!\!-\!\!$}}\vert _i \mathbbm b)}{\Delta} \qquad(i=1,2,\dots,n)
$

    で定まる成分を持つ縦ベクトルである。
  2. $k=1,2,\dots, n$ にたいして、

    $\displaystyle \mathbbm x_k
=
\begin{bmatrix}
{\operatorname{det}(A {}_{\raisebo...
...{}_{\raisebox{-1mm}{$<\!\!\!\!\!-\!\!$}}\vert _n \mathbbm e_k)}{}
\end{bmatrix}$

    とおく。( $\mathbbm e_k$$k$ 番目の基本ベクトル)。 すると、 $A \mathbbm x_k=\Delta \cdot \mathbbm e_k$ である。
  3. (2)の $\mathbbm x_k$ をならべて

    $\displaystyle A[\mathbbm x_1 \mathbbm x_2 \dots \mathbbm x_n]= \Delta \cdot E_n
$

    を得る。
  4. (2)の $\mathbbm x_k$ にたいして、 $[\mathbbm x_1 \mathbbm x_2 \dots \mathbbm x_n]$$A$ の余因子行列と等しい。

行列の逆行列の行列式による表示、クラーメルの公式は、 計算量的にはいまいちである。が、次のような利点がある。 (クラーメルの公式でも同じなので逆行列についてのみ述べる。)

  1. $A$ の逆行列は % latex2html id marker 869
$ \operatorname{det}(A) \neq 0$ である限り $A$ について 連続的に動く。

  2. $A$ の逆行列の各成分は、$A$ の成分の和、差、積を適当にとったあと、 $\operatorname{det}(A)$ で割ることで得られる。(それ以外の演算は必要ない)

命題 8.2   $\operatorname{det}(AB) = \operatorname{det}(A) \operatorname{det}(B)$ が任意の $A,B \in M_n($$\mbox{${\mathbb{R}}$}$$)$ に対して 成り立つ。