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余談:Ultra filter の言い換え

ultra filter の議論は不慣れだが、代数幾何は得意な方には、 次のような言い換えはいかがだろうか。

LEMMA 2.5   集合 $ X$ に離散位相を入れて位相空間と考え、その上の複素数値有界関数全体を $ C_b(X)$ とかくことにする。$ C_b(X)$ には各点での演算で環($ C^*$-環)の 構造が入る。さらに、$ C_b(X)$ の極大イデアル全体 $ Y=\Spm (C_b(X))$ には、 $ C_b(X)$ の各元を連続にするような最弱な位相を入れておく。 このとき、次の5つのものは同等である。
  1. $ Y$ の点(すなわち、$ C_b(X)$ の極大イデアル)
  2. $ C_b(X)$ から $ \C $ への $ \C $-代数としての準同型 $ \varphi$
  3. $ C_b(X)$ から $ \C $ への $ *$-環準同型
  4. $ X$ の最大コンパクト化(Stone-Cechコンパクト化)の点
  5. $ X$ の ultra filter

こう言い換えてみると ultra filter は $ X$ の最大コンパクト化の元で、 principal ultra filter はそのうち $ X$ のもともとの元。 non-principal ultra filter のほうは $ X$ の``理想境界'' の元であると見ることができて、 若干見やすく感じられると思うのだが、いかがだろう。

上の補題の証明は本題とは全く関係ないのだが、適当な参考文献が 見当たらないので一応つけておこう。 (この補題が知られていないと言う意味ではない。それどころかいまでは wikipedia (誰でも書き込めるweb 上の百科事典。 URL は http://en.wikipedia.org/wiki/ ) にも本質的な部分は載っているぐらいに有名である。) とくに興味がある方を除いては 次の小節までスキップすることをお勧めする。

PROOF.. (2) のデータ $ \varphi$ から (1)を作るのは $ \varphi$ の 核を考えればよい。(代数幾何の方には説明を要しないであろう。)

$ C_b(X)$ は可換 $ C^*$-代数(とくにBanach 環)であり、その極大イデアル $ \mathfrak{M}$は 必ず閉じている( $ \mathfrak{M}$ の閉包も $ C_b(X)$ の イデアルであるから。)。とくに、 $ C_b(X)/\mathfrak{M}$ は Banach 環で、 かつ、体である。そのようなものは $ \C $ しかない。(Gelfand-Mazur の定理。 代数幾何における 零点定理の $ C^*$-代数版と言っても (言っている人は見たことがないが、)よかろう。) ゆえに、(3)のデータが得られる。このことから (1)-(3)の同等性は 明白だろう。

(4) と(1) の同等性を示そう。 $ X$ からコンパクトハウスドルフ集合 $ K$ への連続写像 $ \phi$ が 与えられているとする。 $ K$ 上の複素数値連続関数全体のなす環 $ C(K)$ から任意に $ f$ をとると、 $ f$ は(コンパクト集合上の連続関数であるから)有界で、その $ \phi$ による 引き戻し $ \phi^*(f)$ も 当然有界である。したがって、

$\displaystyle \phi^* : C(K) \to C_b(X)
$

なる $ *$-環準同型が定まることがわかる。$ C^*$-環の世界ではよく知られているように $ C(K)$ の極大イデアル全体は $ K$ と同一視できる(Stone-Weierstass の定理: コンパクトハウスドルフ集合は $ C^*$-環の世界ではアファインなのだ。) ので、

$\displaystyle Y=\Spm (C_b(X)) \to K
$

なる連続写像が定まる。このことは $ Y$ が「普遍性」を持つことを示しており、 $ Y$ が「最大コンパクト化」であることが知れる。

(5) のデータ、すなわち $ X$ の ultra filter $ \mathcal U$ から (3)のデータを作ろう。 $ C_b(X)$ の元 $ f$ を任意にとる。$ f$ に対してその 「 $ \mathcal U$ での 値」(極限) を定める必要があるわけだが、それには「区間縮小法」を用いる。 $ f$ は有界であるから、ある $ K>0$ があって、

$\displaystyle f(X) \in D_K=\{z\in \C ; \vert z\vert\leq K\}
$

が言える。$ D_K$ は半径 $ K$ の複素円盤である。 いま、任意の $ \epsilon>0$ にたいして、$ D_K$ を直径 $ \epsilon$ 以下の集合有限個 $ B_1,\dots,B_N$ の和でもって、

$\displaystyle D_K = B_1 \cup B_2\cup \dots B_N
$

と覆うと、

$\displaystyle X=\bigcup_{j=1}^N f^{-1}(B_j)$   disjoint union

となり、ultra filter の性質から、ある $ j$ があって、

$\displaystyle f^{-1} (B_j) \in \mathcal U
$

がわかる。この $ j$ にたいして $ f^{-1}(B_j)$ のことを $ U$ と書くと、 $ U\in \mathcal U$ で、なおかつ $ f(U) $ の直径は $ \epsilon$ 以下、すなわち、 $ f(\mathcal U)$ は 「コーシーフィルター」であることがわかる。 $ \C $ はもちろん完備距離空間 であるから、 $ f(\mathcal U)$ は一つ(唯一つ)の元 $ c_f\in \C $ に収束する。

$\displaystyle f \mapsto c_f
$

が求める $ *$-環準同型である。 $ \qedsymbol$


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平成17年5月17日