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: Q2.どのような基底の取り方をすれば、 と表せ、指数法則も成立 するのでしょうか? : 疑似指数 Q and A : 疑似指数 Q and A

Q1 実数全体のなす空間 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上のベクトル空間になることは分かりますが、 そのときの基底が存在するのはなぜですか。

A1. このことを示すには選択公理をもちいるのですが、 (それと同値であるところの) Zorn の補題を用いた方が簡単ですので、そうします。 Zorn の補題と選択公理の関係については、集合論の本、あるいは実解析学の 教科書の最初の方などを参照してみてください。

Zorn の補題の使い方そのものも、精密にやらないとすぐに間違えてしまいますから、 それらの本を参照して習熟して頂くことをお勧め致します。 ここに書くことはあくまで参考程度だとお考えください。

まず、無限個の元の一次独立性の定義について復習しておきますと、 族 $ S=\{s_\lambda\}_{\lambda\in \Lambda}$ が一次独立であるとは、 $ S$ のどの有限個をとってきても一次独立といういみです。 (今言うところの「族」と集合とは、 添字集合 $ \Lambda$ で名前がつけられているかどうかが異なります。 有限数列と有限集合の違いのようなもので、両者は

  1. 重複したものを別々と考えるかどうか、
  2. 並べ方をかえたものが同じと考えるか、どうか
という点で異なります。 添字集合 $ \Lambda$ はいろいろと変わり得て、$ B$ が有限集合だったら $ \{1,2,\dots,n\}$ という標準的なものを想像すればよいのでしょうが、 場合によっては可算無限個の元をもつ $ {\mbox{${\mathbb{Z}}$}}$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ かもしれないし、 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ や、 もっと濃度の大きい集合かもしれません。 )

厳密には集合と族は違って、一般に基底の話をするときには族を使う方が ふさわしいのですが、今の場合に限っては集合で扱っても 問題はない 1ので、以下ではそのようにします。

例えば、 $ \{1,e,e^2,e^3,\dots\}$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上一次独立になります。 (証明には $ e$ が超越数であることを用います。)

さて、 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の部分集合 $ B$ で、その元全体が一次独立なものはいろいろありますが、 それらを全部集めたものを $ \Omega$ と書きます。

$\displaystyle \Omega=\{ B\subset$   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$$\displaystyle ; B$   の元の全体は    $\displaystyle \mbox{${\mathbb{Q}}$}$    上一次独立$\displaystyle \}
$

$ \Omega$ の二つの元 $ B_1$$ B_2$ について、 $ B_1$$ B_2$ の拡張になっている時 ( $ B_1\supset B_2$ のとき)に、 % latex2html id marker 1276
$ B_1\geq B_2$ とかき、 $ B_1$$ B_2$ より大きいと言うことにします。 これによって $ \Omega$ には順序がはいります。 ここで次の主張が成り立ちます。

主張 $ \Omega$ の任意の全順序部分集合は $ \Omega$ の中に上界を持つ

じっさい、$ \Omega$ の全順序部分集合 $ \Omega_1$ に対して、

$\displaystyle B_{\Omega_1}=\cup_{B\in \Omega_1} B
$ (★)

$ \Omega$ の元で、 $ B_{\Omega_1}$$ \Omega_1$ のどの元よりも大きくなります。

念のために、 $ B_{\Omega_1}$$ \Omega$ の元である、 すなわち $ B_{\Omega_1}$ の元の全体は $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上一次独立なことの 証明をしておきますと、 $ B_{\Omega_1}$ の任意の互いに相異なる有限個の元 $ x_1,x_2,\dots,x_n$ をとってくると、 $ x_1,x_2,\dots,x_n$ はそれぞれ ある $ \Omega_1$ の元 $ B_1,\dots,B_n$ の元になっており、 $ \Omega_1$ は全順序集合であるということから $ B_1,B_2,\dots,B_n$ のなかのどれか一つ $ B_{k_0}$ $ B_1,B_2,\dots,B_n$ のどれよりも大きくなります。 この $ B_{k_0}$ $ x_1,x_2,\dots,x_n$ を全て含むことになり、 $ B_{k_0}$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$ 上一次独立であったので、 $ x_1,\dots,x_n$ は一次独立というわけです。

(蛇足ながら、 $ \Omega_1$ が全順序集合であるという仮定を外すと、(★)式によって決まる $ B_{\Omega_1}$ は一般には独立ではありません。 たとえば、 $ B_{\Omega}=$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ などとなります。)

上の主張と Zorn の補題から、$ \Omega$ は極大元を持ち、 その極大元は $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の基底になるということがわかるというわけです。



2002年10月9日