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: 非可換スキームの定義 : 曲面の非可換変形のいくつかの例について : 序説   目次


非可換空間の定義

非可換幾何学を始める上でまず問題になるのは、 非可換スキームというものをいかにして定義するかである。 ここでは Rosenberg [7] の見方を採用する事にする。 まず、「非可換空間」を定義する事から始めよう。 ここでは空間をその上の準連接層のなすアーベル圏によりとらえる。 すなわち非可換空間とはこの立場では単にアーベル圏のことである。 (層のセクションとは「場」の別名であると解釈できる。そう考えると ここの考え方は空間をその上の場の「種類」と場の間の「関係」により 捉えようとしているとも言えて、なかなか面白い。) 非可換空間の間の射は次のようにして定義する。

Definition 2.1   [7] Let $ {\mathcal{C}}_1,{\mathcal{C}}_2$ be abelian categories. A morphism $ f$ from $ {\mathcal{C}}_1$ to $ {\mathcal{C}}_2$ (in the sense of Rosenberg) is an isomorphness class of right exact additive functors from $ {\mathcal{C}}_2$ to $ {\mathcal{C}}_1$. A representative of the class is called an inverse image functor. And if we made a choice of one such, we denote it by $ f^*$. $ f$ is said to be continuous if the inverse image functor $ f^*$ has a right adjoint (called a direct image functor $ f_*$ of $ f$).

注意 右adjoint $ f_*$ の存在は $ f^*$ の順極限との可換性を保証している。 実際、 $ {\mathcal{C}}_2$ の任意の帰納系 $ \{M_i\}$ をとって来ると、 任意の $ N\in \operatorname{Ob}({\mathcal{C}}_1)$ について、

  $\displaystyle \operatorname{Hom}(f^*(\varinjlim M_i),N) \cong \operatorname{Hom}(\varinjlim M_i,f_* N)$    
  $\displaystyle \cong \varprojlim \operatorname{Hom}(M_i,f_* N)\cong \varprojlim\operatorname{Hom}(f^*M_i,N)$    
  $\displaystyle \cong \operatorname{Hom}(\varinjlim(f^* M_i),N).$    

が成り立つから、 $ f^*(\varinjlim M_i)=\varinjlim (f^*M_i)$ が 成り立つことが分かる。 上の定義で言うところの「連続」にはおそらくそういう意味がこめられている のだろう。

(適当なuniverseに関する)アーベル圏の全体に、上のようなmorphismを導入した物が、 我々の「非可換空間」のカテゴリーである。

もちろん、普通の意味のスキーム、環付き空間等々は、その上の準連接層を考える事 により、このカテゴリーの対象とみなす事ができる。

十分すぎるぐらい大きく見えるこの「空間」の捉え方にも 補うべき点があって、

1. $ C^*$-代数の理論のような、環と加群に位相をもたせる理論では、 加群の全体はアーベル圏になり得ない。(同型でない全単射が存在したりする。) このことは、例えば通常の環の (ベクトル空間としての)双対を考えたい時などにはこれは少し問題になる。 (Manin [6] にも少しそのような位相の問題について 触れてある。)

2. 定義できる限りは、正しくない(笑)。(1節をみよ)

そうは言うものの上の定義は代数的にはさしあたって考えられる限りいちばん大きな 風呂敷を広げていると言っても良いだろう。 ここまで空間の概念を広げておくと、 貼り合わせ等の諸概念についていちいち正当化の心配をしなくて済む。 安心感を与えてくれる定義である。

ところで、 ``準連接層の全体のカテゴリー''は、元の空間を復元できる ぐらい十分多くのデータを持っているのか、と言う疑問が生じる。 結論から言えば、「構造射」をコミにして考えれば答えは肯定的である。 以下そのことについて述べることにしよう。

まず、(可換とは限らない)環 $ R$ について、圏 $ (R{\text{\rm {-}}}{\operatorname{mod}})$$ R$ を復元できるかどうかについては、次の補題が答を与える。

Lemma 2.1   Let $ k$ be a ring, $ R_1,R_2$ be $ k$-algebras. Let $ \rho_i: (R_i$-$ {\operatorname{mod}}) \to (k$-$ {\operatorname{mod}})$ be structure morphisms (that is, morphism defined by the structure homomorphisms $ k\to R_i$) ($ i=1,2$). We define an equivalence of homomorphisms from $ R_1$ to $ R_2$ by saying that two homomorphisms $ \phi,\psi: R_1 \to R_2$ are equivalent if and only if there exists an invertible element $ u$ of $ R_2$ such that $ u\phi u^{-1}=\psi$. Then there is a bijection between the set $ \operatorname{Hom}_k(R_1,R_2)/\sim$ of equivalence classes of k-algebra homomorphism and the set of morphisms $ f:(R_2$-$ {\operatorname{mod}}) \to (R_1$-$ {\operatorname{mod}})$ which satisfies $ f\circ \rho_1=\rho_2$. In particular, a category isomorphism $ (R_2{\text{\rm {-}}}{\operatorname{mod}}) \cong (R_1{\text{\rm {-}}}{\operatorname{mod}})$ which commutes with $ \rho_1,\rho_2$ exists if and only if the two $ k$-algebras $ R_1$ and $ R_2$ are isomorphic.

この補題の証明には、容易に分かる次の事実を使えば良い。

  % latex2html id marker 2493
$\displaystyle \rho_i^*(k)\cong R_i \quad (i=1,2)$    
  $\displaystyle \operatorname{Hom}_{R_i}(R_i,R_i)\cong R_i^{\operatorname{opp}} ($ $ i=1,2$, 代数としての同型$\displaystyle )$    
  $\displaystyle \operatorname{Hom}_{R_i}(R_i,M_i)\cong M_i ($$ i=1,2$, 加群としての同型$\displaystyle )$    

上の議論を追うと分かるのだが、 構造射 $ \rho_i $ を指定する事には、 「基点」 $ \rho_i^*(k)$を決める役割がある。 実は 基点を決めないでおくと、 圏 $ (R{\text{\rm {-}}}{\operatorname{mod}})$ だけでは $ R$ を同定するのに 十分な情報を与えない。 二つの環 $ R,R'$ $ (R{\text{\rm {-}}}{\operatorname{mod}})$ $ (R'{\text{\rm {-}}}{\operatorname{mod}})$ とが 圏として同値の時森田同値と言われる。ある環に森田同値な環 がどのようなものかについては次の補題でわかる。

Lemma 2.2 (Theorem 3.23 in [3] For a given ring $ R$ let $ e$ be an idempotent in a matrix ring % latex2html id marker 2536
$ M_n(R)
$,
% latex2html id marker 2518
$ n \geq 1...
...operatorname{Qcoh}(X))$ of
quasicoherent sheaves on $X$.\end{theorem_type}\par$
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平成15年9月1日