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: 付録 : 疑似指数 Q and A : Q2.どのような基底の取り方をすれば、 と表せ、指数法則も成立 するのでしょうか?

Q3.さらに、このWは非可測な集合になるのでしょうか?

A3.なります。本質的には $ W$

   $\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1390
$\displaystyle =\sum_{q\in \mbox{${\mathbb{Q}}$}} (W+q)
$

と、可算個で全体集合 $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ を分けていて、しかもそれぞれの % latex2html id marker 1394
$ W+q$$ W$ の コピー($ W$ を平行移動したもの)であることに起因しています。

このことをきちんと示すにはルベーグ積分の知識が 必要ですから、ここではある程度その知識を仮定します。

以下、「可測」とは「ルベーグの意味で可測」という意味とし、$ \mu(?)$$ ?$ の ルベーグ測度をあらわすこととします。

いま背理法で $ W$ は可測であったと仮定します。

次の二つの補題を使います。

補題 3.1 (ルベーグ測度の平行移動不変性)   任意の可測集合 $ X\subset$   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ と 任意の実数 $ r$ に対して、

$\displaystyle \mu(X)=\mu(X+r)
$

この補題は、集合の測度が平行移動しても変わらないことを述べているので、 理解しやすいでしょう。

補題 3.2 (測度の可算加法性)   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の可算個の可測集合 $ \{X_i\}_{i=0}^\infty$ に対して、

% latex2html id marker 1419
$\displaystyle \mu(\bigcup_{i=0}^{\infty} X_i)\leq \sum _{i =0}^\infty \mu(X_i)
$

($ X_i$ のどの二つも交わらないならば等号が成り立つ。)

この補題はルベーグ積分論で可算性がうまく用いられていることを 述べているもので、ルベーグ積分論の要の一つだと言えます。

さて、上の二つの補題を認めることにしますと、 もし $ \mu(W)=0$ なら

$\displaystyle \mu($$\displaystyle \mbox{${\mathbb{R}}$}$% latex2html id marker 1427
$\displaystyle )=
\mu\left(\bigcup_{q\in \mbox{${\ma...
...thbb{Q}}$}}^\infty \mu(W+q)
=\sum_{q\in \mbox{${\mathbb{Q}}$}}^\infty \mu(W)=0
$

となって矛盾しますから、 $ \mu(W)>0$ でなければならないことが分かります。

さらに、次の補題をもってきましょう。

補題 3.3 ( $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ における測度と位相の関係)   $ A$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の可測集合で、$ A$ の測度が正である(つまり、0 でない)ならば、

$\displaystyle A-A=\{a_1-a_2; a_1,a_2\in A\}
$

は 0 の近傍を含む。 (ここでの $ A-A$ の定義は集合としての差 $ A\setminus A(=\emptyset)$ とは異なることに注意)

この補題の証明は、ルベーグ積分をどのように構成するかによって、議論のしかたが 変わってくるのですが、それを承知ですこしだけ説明をつけることにします。

$ A$ を次のように両端を切ったものの和集合で書きます。

$\displaystyle A=\bigcup_{n\in \mathbb{N}} (A\cap [-n,n])
$

測度の可算加法性を思い出すと、ある正の整数 $ n_0$ があって、 $ A_0=A\cap [-n_0,n_0]$ の測度も正であることがわかります。 $ A$ のところを $ A_0$ に減らしてやってなおかつ上の補題がなりたつならば、 もとの $ A$ でも上の補題が成り立つのは明らかですから、 始めから $ A$ は有界である (とくに、その測度は有限である)と 仮定してよいことになります。 すると、

$\displaystyle f(r)=\mu(A\cap (A+r))
$

$ r$ の連続関数3で、 $ r=0$ の時正の値をとります。ゆえに、ある $ \epsilon>0$ があって、 $ \vert r\vert<\epsilon  \implies  \mu(A\cap (A+r))>0$. この $ \epsilon$ に対して、

$\displaystyle A-A \supset (-\epsilon,\epsilon)
$

というわけです。

いま、$ W$ $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ $ \mbox{${\mathbb{Q}}$}$-部分空間だから、 $ W-W\subset W$ が成り立つということに注意して上の補題を使うと、 $ W\supset (-\epsilon,\epsilon)$ となる正の数 $ \epsilon$ があることになります。 ところが下の補題を用いると、これは $ W=$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ を意味して、矛盾というわけです。

補題 3.4 ( $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の 原点の近傍は(加法半群として) $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ を生成する。)   $ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ の部分集合 $ S$ が次の二つの性質を持ったとする。
  1. $ S \supset (-\epsilon, \epsilon)$ なる $ \epsilon>0$ が存在する。
  2. $ S+S \subset S$
このとき、 $ S=$$ \mbox{${\mathbb{R}}$}$ がなりたつ。

この補題自体の証明はとても簡単です。

(実は上に挙げた補題はいずれも位相群と呼ばれる対象の測度(Haar 測度) や位相を調べる最初の道具としてつかわれる形に拡張できます。)



2002年10月9日