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$ A_R$ の表現と $ \mathcal D_R$-加群との対応

結論から先に述べよう。次の定理が成り立つ。

定理 5.1   $ R$ を複素数とし、

$\displaystyle A={\Bbb C}[x_1,\dots,x_n,\partial_1,\dots,\partial_n], \mu=\sum_i x_i \partial_i-R
J=A\mu, A_R=N(J)/J
$

とおく。次のようなカテゴリーを考えよう。

$\displaystyle \mathcal C_1$ $\displaystyle =\{$graded $ A$-module $ M$ with $ \mu_{M_0}=0$$\displaystyle \}$    
$\displaystyle \mathcal C_2$ $\displaystyle =\{$$ A_R$-module $\displaystyle \}$    
$\displaystyle \mathcal C_3$ $\displaystyle =\{$    $ \mathcal O$-quasi-coherent $ \mathcal D_R$-module on $ \mathbb{P}^n({\Bbb C})$$\displaystyle \}$    

このとき、
  1. $ R$ が整数でなければ、上の三つのカテゴリーは同値である。
  2. $ R$ が 0 以上の整数ならば、 $ C_2$$ C_3$ とは同値である。

なお、$ R$ が 0 以下の整数の時については上の定理は言及していないが、 その時どのようなことが起こっているかは、 以下の解説を見れば大体想像がつくと思う。 さらに必要なら $ A_R$$ A_{n-R}$ との同型を使えば、 もっと詳しく述べることもできる。

さて、定理の証明のためには、次の補題を証明すればいい。

補題 5.1   上の定理と同じ記号を使う。次の等式が成り立つ。

$\displaystyle \operatorname{Ob}(\mathcal C_2)$ $\displaystyle =\{M_0; M\in \operatorname{Ob}{C_1}\}$    
$\displaystyle \operatorname{Ob}(\mathcal C_3)$ $\displaystyle =\{M$   の尻尾$\displaystyle ; M\in \operatorname{Ob}{C_2}\}$    

ただし、graded module $ M$ の尻尾とは、$ M$ の、「次数の低い部分の差異を 無視した」ものである。要は $ M$ (を $ {\Bbb C}[X_0,\dots,X_n]$-module と見倣したもの) に対応する ( $ \mathbb{P}^n({\Bbb C})$ 上の層の構成でおなじみのものである。)

この補題の後半は、代数幾何学ではおなじみである。前半の証明のキーになるのは、 次の事実である。

(事実1) $ A_R$-module $ N$ を考えよう。$ N$$ N(J)$-module ともみなせることに注意する。 そこで、 $ M=A\otimes_{N(J)} N$ を考えると、 $ M$ は graded $ A$-module であって、 $ M_0\cong N$ および $ (\mu-R-i).M_i=0$ をみたす。 (事実2) graded $ A$-module $ M$ が、ある整数 $ i$ にたいして $ M_i=0$ をみたす とすれば、 . ゆえに、 $ \mu. M_{i+1}=0$ となる。

上の定理の系として、次の事がわかる。

系 5.1   $ r\in {\Bbb C}\setminus \{-1,-2,\dots\}$ のとき、 $ \mathbb{P}^n({\Bbb C})$ 上の $ \mathcal O$- quasi coherent $ \mathcal D_R$-module $ M$$ A_R$-module $ \Gamma(\mathbb{P}^n({\Bbb C}),M)$ を対応させる函手はカテゴリーの同値を与える。

$ R=0$ の時にはこの系は 《 $ \mathbb{P}^n({\Bbb C})$ $ \mathcal D$-アファイン性》として知られるものである。 たとえば[3]のChapter I section 6 を参照のこと。

$ R$ が一般の時も含めて、この小節の結果よりもっと一般的な結果 (《リー環の表現》と 《旗多様体上のtwisted differential operators の層上の加群》との対応 ) が [1] で述べられている。([4]に日本語の解説がある。)


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平成16年8月24日